それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

 ミレッラを傷つけようとしているわけではなさそうだが、彼の怒りの矛先は間違いなく自分《ミレッラ》にも向いている。
 抜き身の刃のようなその鋭いオーラに、このままでは嫌われるのではないかという恐怖が胸の内に広がった。
 彼へ『賭けの相手』以外の認識なんて、本当は持ちたくないというのに。

「あの、ロラン? ちょっと離れて」
「説明は?」
「え?」
「すると言ったのはあなただろう。するなら早くしてくれ。こっちは必死に耐えてるんだ」

 耐えてる? と内心で首を捻る。
 何を耐えているのだろうという疑問を目で訴えようとしたとき、ロランがミレッラの下唇を親指で押すようになぞってきた。
 それがまるで『キスをする前の仕草』のように思えて、ミレッラは気付く。

(耐えてるってもしかして、私が前に言ったこと?)