それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

 そう歩かないうちに、公爵家の紋章入りの馬車を見つける。ミレッラが乗ってきた馬車とは違うものだったので、ロランが乗ってきたものだろうと推測した。
 馭者が扉を開ける。乗り込む前に、後ろからついてきていたセレナに向けてロランが命じた。

「おまえは乗ってきた馬車で帰ったら、仕事を上がっていい。ただし、イーサンには罰として訓練を追加すると伝えておけ」
「待ってロラン。彼は私が――」
「今日はもうミレッラの世話は必要ない。それと、マシューにも伝言だ。朝まで誰も俺の寝室に近づくなと」
「か、かしこまりましたっ」

 不安げに瞳を揺らすセレナと目が合ったのを最後に、馬車の扉が閉まる。
 椅子に座らされて、隣に詰めてきた彼が鋭い眼差しでじっとこちらを見つめてきた。狭い空間では逃げる場所もなく、真正面から彼の激情をぶつけられる。
 初めて、ロランを怖いと感じてしまった。
 醜い顔《メイク》や耳にする噂のどれもがミレッラにとって彼を怖がる理由にならなかったのは、彼自身にミレッラを傷つける意思がなかったからだ。
 けれど、今は違う。