それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

「申し訳ないけど、下手な口説き文句に乗るほど、私は旦那様に不満なんてないの」

 スヴェンが目を見開く。
 しかし、すぐに瞼を伏せるようにして笑った。
 その笑い方がどこか投げやりな、ホッとしたような、彼の本質に触れるようなものだったから、今度はミレッラが意表をつかれたように目をまばたく。
 何がしたいのか読めないスヴェンだが、その表情を見てしまえば本気で心配になってくる。

「ねえ、あなた。本当に大丈――」

 ――ぶ? と言い終わる前に、後ろから誰かに羽交い締めされるように抱きしめられる。
 顔の横で焦りの混ざった荒い呼吸を感じて、目線をそちらへと持っていく。
 抵抗しないのは、視覚よりも早く嗅覚が自分を抱きしめる相手の正体を教えてくれたからだ。
 深い森を彷彿とさせる、落ち着いたオードパルファムの香り。嗅ぎ慣れた汗の匂い。
 加えて、ミレッラを閉じ込めるように首に回された、見慣れた逞しい腕。

「人の女に手を出すとは……死にたいのか、貴様」