それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

 おそらく青年を警戒しているのだろう。公爵夫人付きのメイドとしては、やはり気になるのが当然だ。
 でもそれでは、セレナが疲れてしまう。だから彼女の警戒心を解くためにわざと冗談で和ませた。
 狙い通り、セレナが打って変わって楽しそうにメニュー表を勧めてくる。
 ミレッラは彼女お勧めのフルーツティーを頼むと、ふたりにも何か注文するよう促した。
 すると、ふたりともこの店で一番安いブレンドティ―を頼むものだから、思わず苦笑してしまった。
 注文を終えた後は、青年への質問タイムだ。
 彼はスヴェンと名乗った。

「念のため聞くけど、スヴェンはさっきの暴漢と知り合いなの?」
「いいえ。肩がぶつかって、謝ったんですが許してもらえなくて。気付けばあんな人気(ひとけ)のない場所に」
「気付けばって」

 くすくすと笑う。いくら男だとしても、危機感がなさすぎて心配になる。

「スヴェンは貴族のご令息かしら?」
「滅相もないです。僕は貴族のお屋敷で働かせてもらっているだけの、ただの平民ですよ」
「……そう」

 それで服装のわりに仕草が洗練されているのかと納得する一方で、平民が高級店の並ぶこの辺にいる不可思議さに違和感を持った。
 ただ、貴族の屋敷で働いているのなら、主人の遣いで来ている可能性も否めない。貴族によっては、お仕着せのままお遣いをさせない家もあると聞いたから。
 それに、だからといってなんだという話でもある。今感じた違和感が正しいとして、それがつまりミレッラに何かしらの不利益をもたらすとは限らない。