それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

 こんな状況でも、ミレッラは己の目的を忘れていない。席に案内されながら、店内を視線だけで確認する。
 ミレッラは件の商人と会ったことはないけれど、特徴だけは聞き及んでいた。狐目で肥えた見た目の、三十代男性。目が開かないのは、おそらく瞼にのった脂肪のせいらしい。
 けれど該当する特徴の男は見つけられず、諦めて椅子に座る。
 青年も戸惑いつつ、対面に腰を下ろした。最後まで迷っていたセレナは、ミレッラが袖を引っ張って促してやっと座ってくれた。
 四角いテーブルの各辺に落ち着いたミレッラたちは、ここでようやく安堵の息をつく。

「あの、すみません。巻き込んでしまって。ですが助かりました」

 青年が頭を下げる。遠目からでも整った顔立ちをしているとは思ったが、近くで見るとなおさらそう思う。
 雄の色気溢れるロランとは、また別の方向で綺麗な男だ。身体の線は細いものの、よく見ると骨張った男らしい手をしている。
 平民のような服装のわりには、仕草は貴族のように洗練されている。
 ミレッラは青年を黙したまま観察した後、にこっと笑みを作ってから口を開いた。

「いいのよ。困った時はお互い様だもの。それより怪我はない?」
「あ、はい。おかげさまで」
「ならよかった。とりあえず何か頼みましょう? 私――というか旦那様のお金だけど、奢るわ」
「奥様っ。あれは違うんですよ……っ。咄嗟に出た言い訳でっ」

 先ほど暴漢たちにセレナが切った啖呵について触れてみたら、顔を真っ赤にした彼女が慌てて弁明する。

「ふふ、冗談だから大丈夫よ。ちゃんとわかってるわ」

 セレナを揶揄うようなことを口にしたのは、彼女がまだ少し緊張していたからだ。