それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

 そこはデビュタント で見つけて以来、王都に来る時のイラニア伯爵家行きつけの店となった。その店のミートパイが絶品で、父も母もミレッラも気に入ったからだ。

「――お父様、私、デビュタントであのドレスが着たいわ!」
「ん? あれかい? じゃあちょっと覗いてみようか」

 すれ違った身なりのいい親子を振り返る。
 あと一カ月ほどで、今年の社交シーズンが始まる。
 一定の年齢を迎えた令嬢が大人の仲間入りを果たすためのデビュタントが、社交シーズンの開幕を知らせる役割を担っているため、すれ違った少女は今年が成年になるのだろう。
 嬉しそうにはしゃぐ姿を微笑ましく思うのと同時に、過去の自分に重なってぐっと奥歯を噛みしめた。
 もうあの頃のように、無邪気な少女ではいられない。
 あんなに大人の仲間入りをするのが楽しみで仕方なかった少女は、あの頃の純真さなんて失って、己の目的のために他者を利用するような女になってしまった。

(お父様、お母様……)

 ごめんなさいと、喉の奥から迫り上がってくるものを必死に飲み下す。
 こんな娘でごめんなさいと。ふたりが大切にしてきたものを何ひとつ守れなくてごめんなさいと。
 何よりも、お互い様とはいえ、誰かを利用するような人間になってしまったことに罪悪感を覚えている。ふたりはミレッラをそんな娘には育てなかったのに。
 でももう、後戻りはできない。