それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

 成人祝いに父が買ってくれた帽子。母がくれたグローブ。
 その全てを、カリーナに燃やされている。
 手元に両親の形見が残ることはなく、ふたりを感じられる場所《もの》は墓石だけだった。
 教会の墓地に埋葬されたふたりのお墓だけは、さすがに叔父もカリーナも世間体を気にして手を出さなかったので、日々に疲れた時、両親に会いたくなった時はそこへ通ったものだ。
 けれど、もうそこにしかないと思っていた両親の影を、ミレッラは王都にも見る。

(あのお店、お父様が帽子を買ってくれたところだわ)

 乗っていた馬車から降りて、セレナと一緒に街を歩いていてすぐに見つけた。
 王都のメインストリートに並ぶ高級店の一つで、道に面した壁はガラス張りなので店内の様子が窺える。
 伯爵家は資産こそ持っていたが、父も母もあまり自分たちのためにお金を使うタイプではなかった。だから娘であるミレッラも、普段は両親にならい、あまり物をねだったことはない 。
 けれど初めてわがままを言って買ってもらったのが、この店で売っていた帽子だ。

(懐かしいわ……。お父様、私が迷っているのに気付いて、手を引いてくれたのよね)

 その帽子店の少し先には、三人で一緒にランチをしたレストランがある。