それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう


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 ロランに嫁いでから二カ月ほどが経ち、ミレッラは少しだけ焦りを覚え始めていた。
 このままでは叔父から爵位を取り戻すより早くロランの子を身ごもってしまうのではないかという、なんとも言えない感情が胸の奥からじわじわと迫ってくるからだ。
 これは単なる恐怖ではない。不安でもない。
 そんな単純な感情ではなく、いろいろなものが混ざり合った複雑なものだった。
 複雑だからこそ、焦りを覚えているのだ。
 そのせいで最近は心ここにあらずといった状態になることがあり、セレナに心配を掛けている。ロランも何か言いたげな視線を寄越すようになり、気付いていないふりをするのが大変だった。
 単なる恐怖や不安だけなら、ミレッラもここまで追い詰められてはいない。
『ロランの子を身ごもる』という言葉に、喜びのようなものを感じ始めている自分に気付いてしまったから、焦燥感に駆られているのだ。
 このままでは彼に落ちてしまうと危惧した通りの状況に、本格的に陥ってしまう。
 復讐も成せない、賭けにも負ける――そんな状況は一番避けたい。

「奥様、大丈夫ですか?」

 セレナが心配そうに顔色を窺ってくる。
 今日はロランは仕事に行っているが、ミレッラは出仕するのを禁止された。そのため自室の書き物机の前で、これまでの調査結果をまとめていた。
 が、またいつのまにかぼーっとしていたようだ。
 ちなみに、出仕を禁止したのはロランである。