それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

 ロランは人の顔と名前を覚えるのが苦手で、それは単純に他人に興味がないからなのだが、そのせいでイラニア伯爵が代替わりしていたことも、彼の収支報告書を読んで不審感を抱くまで気付いていなかった。
 イラニア伯爵と言えば、今時珍しい領民思いの良心的な領主だと覚えていたから、最初に不審感を持った時は小首を傾げたものである。
 しかしすぐにロランの思う『イラニア伯爵』が事故で亡くなっていて、その兄が後を継いでいたことを知った。
 そしてその兄が、叩けば埃の出るような人間だということも。
 ただ、頭はよくないのに悪知恵だけは働くタイプのようで、なかなか証拠が掴めない日々が続いた。
 そもそもロランが違和感を持たなければ、誰もイラニア伯爵の申告を不審に思わなかったというのも問題だ。
 大きな災害もなく、特段領地に問題が起きたような事態もないのに税収が下がるなど、何かしら違和感を持って然るべきだ。が、部下に調査をさせても、証拠らしい証拠は見つけられなかった。
 書面からでも怪しさがひしひしと伝わってくるのに、ここまで『何もない』のは逆に怪しすぎる。
 これは何かあると踏み、忙しい合間を縫って今度は自分で調査することにした。