政略妻はもう終わりにするはずが、冷酷外科医は永久溺愛で離さない

 少し経って、逃げるように帰ってしまい、三浦先生に不快な思いをさせたかもしれないと不安になる。

 だけど早く離れなければ、もっと一緒にいたいという欲が出たはず。だから間違いではなかったよね。

 目を閉じると、三浦先生の様々な表情が脳裏に浮かぶ。

 ずっと遠くから眺めていることしかできずにいた彼を、間近で見ることができて少しだけれど言葉も交わすことができた。

 本当に夢のような時間を作ってくれた院長には感謝しないと。

 帰宅後、夕食の席で期待する両親に事情を説明した。三浦先生には噂になるほどお似合いの女性がいること。おそらく、院長に言われて仕方なく私に会ってくれたことを。

 残念がるふたりに、うまく断ってくれるようお願いした。

 それからいつもの日常を過ごすこと数日後の夜。上機嫌の父から思いもよらぬ話を聞くことになる。

「繭子、隼人君がぜひまたお前に会いたいそうだ」

「……え?」

 仕事から帰ってくるなり父が放った一言に、一緒に驚いた母はすぐに大喜び。

「まぁ! それはよかったわね」

「繭子の願い通りにやんわりと断ろうとしたんだが、院長室に隼人君もいてね。それで向こうから結婚を前提に関係を深めていきたいと言ってきたんだ」

「う、そ……」

 にわかには信じがたい話に呆然となる。結婚を前提にだなんて、なにかの間違いじゃないだろうか。

 そんな私の疑問を打ち消すように父は、はつらつと続ける。

「嘘じゃないさ。ああれはどう見ても蘭子に好意を寄せているようだったぞ」

「それじゃ隼人君に恋人がいるっていうのは、繭子の勘違いだったんじゃないの?」

 両親に言われても信じられなくて「そんな、まさか」と漏らすと、父は少しだけムッとなる。

「言っておくが繭子はいい子で可愛い。俺の娘なんだ、隼人君がお前を好きになっても、なにも不思議じゃない。むしろ隼人君に繭子は勿体ないくらいだ」

 とんだ親ばか発言で照れ臭くなるも、すぐに父の『俺の娘なんだ』という言葉でハッとなった。

 そうだ、中小企業ながら父の会社は三浦総合病院とは古い付き合いらしいし、だから三浦先生も安易に断れないだけでは?
 父に限ってあり得ない話だけれど、もしかしたら三浦先生はこの話を断ったら、父が取引を止めることを危惧している可能性もある。

「もう、あなたったら。でも私も同意見よ。繭子は可愛くて頑張り屋さんで、私たちにとって自慢の娘なのよ。だからもっと自信を持つべきよ」