政略妻はもう終わりにするはずが、冷酷外科医は永久溺愛で離さない

 院長が気軽にゆっくりとした時間を過ごせるようにと、アフタヌーンティーを予約してくれたと聞いている。時間は早いけれど、可能なら席で待たせてもらおう。

 一度深呼吸をしてから玄関を抜けて、ラウンジへと向かった。
そこで店員に待ち合わせしていることを伝えたところ、すでに相手は来ていると言われたものだから耳を疑う。

「え? 本当ですか?」

「はい。すでにお連れ様はお待ちですので、ご案内いたします」

 まさかこんなに早く彼が来ているとは夢にも思わず、少し落ち着いた胸の鼓動が速くなる。でもこれ以上彼を待たせるわけにはいかず、店員についていく。
 すると案内された先の席には、シャツにジャケットを羽織った彼が本を読んでいた。

「三浦様、お連れ様がいらっしゃいました」

 店員の声に彼は本から視線を私に向ける。目が合っただけで、どうしたらいいのかわからなくてパニックになりそう。

 落ち着いてと何度も自分に言い聞かせている間に、三浦先生はゆっくりと立ち上がった。

「今日は貴重な休日にお時間を作っていただき、ありがとうございました」

「いいえ、そんな! こちらこそです」

 私なんかより彼のほうが多忙なはず。お礼を言うのは私のほうだ。それなのに三浦先生は頭を下げるものだから恐縮してしまう。

 彼に「座りましょうか」と言われ、向かい合うかたちで腰を下ろした。

 店員にそれぞれ珈琲と紅茶を注文すると、少ししてサンドイッチなどの軽食やケーキ、フルーツが綺麗に盛り付けられた、アフタヌーンティースタンドが運ばれてきた。
 見た目も可愛くて、どれも美味しそうだけれど、今日ばかりは喉を通るか自信がない。

 とにかく喉を潤したくて紅茶を飲むと、彼もまた珈琲を飲む。

 実際に会っても、なんだか夢の中にいるようだ。だってずっと憧れていた人が私服で目の前にいるのだから。

 たくさん話したいって思って来たけれど、こうやって珈琲を飲むプライベートな彼の姿を見ることができただけでも満足かも。
 そんなことを考えながら紅茶を飲んでいると、淡々とした表情で彼が口を開いた。

「父が無理を言ってすみませんでした。ご迷惑でしたよね」

「えっ? 迷惑だなんて……」

 むしろ迷惑に思っているのは三浦先生のほうではないだろうか。だって竹藤先生という相手がいるというのに、お見合いのような席を用意されてしまったのだから。

 それなのに申し訳なさそうにする彼を見ていたら、素直な思いが口をついて出た。

「迷惑だなんて思っていません。むしろずっと三浦先生とはお話してみたいと思っていたので、このような機会をいただけて嬉しく思います」

 憧れの人はどんな人なのか、少しでも知りたい。それに、今日という日が一生の思い出になるかもしれない。そんな思いで来たのだから。