政略妻はもう終わりにするはずが、冷酷外科医は永久溺愛で離さない

 優秀なことに加えて、一八〇センチの長身に清潔感のある黒の短髪。涼しげな目元が印象的なクールな出で立ちをしていた。
 病院で働く女性職員はもちろん、患者も憧れている人は多いのではないだろうかと思うほど人気がある。

 でもみんな容易に彼に近づくことはできなかった。仕事柄、常に緊張感を持って職務に当たらなければいけないからなのか、三浦先生は近寄りがたい空気を出している。
 そしてなにより、彼のそばには常に寄り添う女性がいたから。

「きっと三浦先生、院長に言われて仕方なく私に会ってくれるだけだよね」

 ベッドの中で目を閉じると、浮かぶのは頻繁に目にしているお似合いのふたりの姿。

 三浦先生とは大学時代からの付き合いで、同じ外科医として働く竹藤(たけふじ)早(さ)希(き)先生は、身長一六八センチのスラッとした体型で、ロングヘアがとても似合う綺麗な人だ。

 真面目で自分にも他人にも厳しく、彼と同じ優秀な医師でもある。ふたりは一緒にいることが多く、竹藤先生には彼も気を許しているようだった。

 美人で医者としての腕も一流。そんな女性に誰も勝てるはずもない。だから先陣を切って三浦先生に想いを打ち明ける者は、この病院にはいなかった。

 それほど病院内では噂のふたりだというのに、院長の耳にまでは届いていなかったのだろうか。
 息子の相手として、竹藤先生ほどいい人はいないと思うのだけど……。

 とはいえ、私にとっては憧れの人と話せるチャンスだ。こういう機会でもないと、一生挨拶や仕事以外の言葉を交わすことは叶わないはず。
 限られた時間の中で彼のことをたくさん知ることができるよう、なにを話すかちゃんと考えてから行かないと。

 きっと、一生の思い出になるはず。その思いで迎えた当日。
 せっかくだからふたりっきりでゆっくり会ってきなさいと言う院長の気遣いがあり、私たちは都内のホテルのラウンジで会うことになった。

「変じゃないよね?」

 タクシーから降りて玄関に向かう前、つい自分の姿を確認してしまう。

 この日のために購入した花柄の膝下ワンピースとパンプス。それに父に二十歳の誕生日にプレゼントでもらったブランドもののバッグを合わせてみた。髪もハーフアップにし、メイクもしっかり施している。

 竹藤先生の足元にも及ばないけれど、彼と一緒にいても恥ずかしくない姿にはなれたはず。

 時刻は十三時三十分。約束の時間の三十分前に来てしまった。でも彼を待たせるよりいい。それに心の準備もしたいところ。