「そう、よね。夫婦だものね。でもなにかあったら、いつでも言ってね。夫とは結婚して二十年近く経つの。夫婦円満の秘訣などいくらでも教えてあげるから」
「ありがとうございます」
真紀さんも上がると言うので、一緒に病院を後にして駅で別れた。電車に揺られて岐路に就く中、頭に浮かぶのは一年半前の出来事。
* * *
「繭子、突然だがお付き合いしているお相手はいるのか?」
「えっ?」
それは、家族で食卓を囲んでいたある休日の夕食時のことだった。医療機器会社の社長を務める父が、なぜかチラチラと私の様子を窺っていたから不思議に思っていたけれど、まさか恋人の存在を聞かれるとは夢にも思わず、箸を持つ手が止まる。
すると父は大きく咳払いをした。
「恋人がおらず、新しい出会いを求めているなら繭子にいい話があるんだ」
「いい話?」
父ははっきりと言わないが、〝いい話〟というワードでなんとなく予想できる。
「あぁ。ぜひ繭子と会ってみたいと先方が望まれていてな。なに、ちょっとお茶をする感覚で会ってみないか?」
お茶なんて言っているけれど、つまりお見合いってことだよね。
父は社長と言っても、総従業員数約三百人の中小企業だ。よく漫画や小説で見るような、業務提携が絡んだ政略結婚をするほどの大企業ではない。
父も昔から結婚は好きな人としなさいと言っていたから、まさに青天の霹靂だ。
「それにお相手は、もしかしたら繭子も知っている人かもしれないの」
話に入ってきた母の言葉に「私が知っている人?」と聞き返すと笑顔で続ける。
「えぇ、なんていったってお相手は繭子の勤め先のご子息だもの」
「勤め先……? え、それってもしかして……」
びっくりし過ぎて言葉が続かない私に代わって父が口を開いた。
「そうだ、三浦総合病院の時期院長である三浦隼人(はやと)君だ」
彼の名前を聞いても聞き間違いじゃないかと疑ってしまう。
「父さんの会社のことだから繭子には言わずにいたが、三浦院長とは起業当時からの古い付き合いでな。昔から飲みに行くたびにお互いの子供が結婚してくれたらと話していたんだ」
「三浦院長、繭子のことをとても褒めてくださっていたそうよ。常に患者や職員に寄り添い、その人に合わせた食事を考えてくれているって」
「そんな繭子だからこそ、ぜひ息子と……と思ったようでな」
「ありがとうございます」
真紀さんも上がると言うので、一緒に病院を後にして駅で別れた。電車に揺られて岐路に就く中、頭に浮かぶのは一年半前の出来事。
* * *
「繭子、突然だがお付き合いしているお相手はいるのか?」
「えっ?」
それは、家族で食卓を囲んでいたある休日の夕食時のことだった。医療機器会社の社長を務める父が、なぜかチラチラと私の様子を窺っていたから不思議に思っていたけれど、まさか恋人の存在を聞かれるとは夢にも思わず、箸を持つ手が止まる。
すると父は大きく咳払いをした。
「恋人がおらず、新しい出会いを求めているなら繭子にいい話があるんだ」
「いい話?」
父ははっきりと言わないが、〝いい話〟というワードでなんとなく予想できる。
「あぁ。ぜひ繭子と会ってみたいと先方が望まれていてな。なに、ちょっとお茶をする感覚で会ってみないか?」
お茶なんて言っているけれど、つまりお見合いってことだよね。
父は社長と言っても、総従業員数約三百人の中小企業だ。よく漫画や小説で見るような、業務提携が絡んだ政略結婚をするほどの大企業ではない。
父も昔から結婚は好きな人としなさいと言っていたから、まさに青天の霹靂だ。
「それにお相手は、もしかしたら繭子も知っている人かもしれないの」
話に入ってきた母の言葉に「私が知っている人?」と聞き返すと笑顔で続ける。
「えぇ、なんていったってお相手は繭子の勤め先のご子息だもの」
「勤め先……? え、それってもしかして……」
びっくりし過ぎて言葉が続かない私に代わって父が口を開いた。
「そうだ、三浦総合病院の時期院長である三浦隼人(はやと)君だ」
彼の名前を聞いても聞き間違いじゃないかと疑ってしまう。
「父さんの会社のことだから繭子には言わずにいたが、三浦院長とは起業当時からの古い付き合いでな。昔から飲みに行くたびにお互いの子供が結婚してくれたらと話していたんだ」
「三浦院長、繭子のことをとても褒めてくださっていたそうよ。常に患者や職員に寄り添い、その人に合わせた食事を考えてくれているって」
「そんな繭子だからこそ、ぜひ息子と……と思ったようでな」



