政略妻はもう終わりにするはずが、冷酷外科医は永久溺愛で離さない

 大変な仕事だと結婚前から理解していたつもりだが、当直日以外にも家に帰ってこない日が多かった。

 そしてなにより、結婚式で誓いのキスを交わしたきり、キスもその先も彼と関係を持つことはなかった。いっさい触れてこないのだ。
 寝室の広いベッドをふたりで使ったことがない。早く帰宅した日や休日、決まって彼は遅くまで勉強するから先に寝ていてくれと言い、書斎に籠って朝まで出てこなかった。

 それに不意に少しでも身体が触れるようものなら、すぐさま私から離れる。手が触れただけで思いっきり退けられた時は、ショックで泣きたくなった。

 再び食べ進めながら、あの時のことを思い出すと鼻の奥がツンとなる。

 突き放すなら、思いっきり突き放してくれたらどんなに楽だったか。

 プロポーズされてお互い〝繭子〟〝隼人さん〟と呼び合うようになった。結婚後、数少ない休日、彼は私と一緒に過ごす。

 買い物に付き合ってくれ、私に行きたいところはないかと聞いてきた時、伝えた場所に嫌な顔ひとつ見せずに連れて行ってくれる。

 家事も手伝ってくれて、なにかと気遣ってもくれる優しい人だ。竹藤先生という相手がいるのなら、関心を向けてくれなくてもいいのに……。

 つらいなら別れを切り出せばいいとわかってはいるけれど、愛されないとわかっていても、夫婦として彼と過ごせるだけで幸せだと感じてしまうほど好きになってしまった。

 なにより彼の口から直接竹藤先生との関係を聞いていないから、どこかで彼のことを信じたい自分がいるのかもしれない。

 空になった食器を洗って、乾燥が終わった洗濯物を畳んだり細かな家事を済ませてからお風呂に入った。

 広い浴室のバスタブに浸かったら、一日の疲れが取れる気がする。

 でも目を閉じると、どうしても隼人さんのことを考えてしまう。

 決して多くのことは望まない。私は隼人さん普通の夫婦になりたい。ただ、私と同じように彼にも好きになってほしいだけ。だけどそれが一番難しい。

「愛し合った先に結婚があるはずなのにな」

 私たちの間には、この先もずっと愛が芽生えることはないのだろう。それなのに罪悪感からなのか、いい夫でいてくれる彼と過ごすたびに幸せの中に悲しみ広まっていく。

 こんな生活をずっと続けていけるのか、結婚して一周年を目前に控えて不安は募るばかりだった。