政略妻はもう終わりにするはずが、冷酷外科医は永久溺愛で離さない

 もしかしたら、噂はただの噂であって竹藤先生とは同僚以上の関係ではないのかもしれないと思うようになった頃、彼からプロポーズされたのだ。

 初めて会ったホテルのレストランで、「生涯、ともに過ごしてくれませんか?」と――。

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 電車を降りて駅から直結するタワーマンションの最上階に、私たち夫婦が暮らす部屋がある。

 広い玄関を抜けた廊下の先には、二十四畳のリビングダイニングがあり、窓からは夜景が見渡せる。

 結婚当初はこんなに素敵な部屋に住めるなんて夢みたいだった。毎夜、綺麗な夜景を眺めながら彼と過ごせることを楽しみにしていたが、実際の結婚生活は違った。

 着替えを済ませてキッチンに立つ。手を洗ってから冷蔵庫の中を確認し、簡単にオムライスを作ることにした。今夜、彼は当直で帰ってこない。ひとりならなんだっていい。
 調理を済ませ、テレビを見ながら黙々と食べ進めていく。

 途中、ふとテレビ台に飾られている写真立てに目がいき、食べる手が止まる。

 結婚式で撮ったふたりの写真。この瞬間は本当にこれからの日々は幸せで溢れていると感じていた。

「そんなわけがないのに」

 ボソッと漏らして苦笑いする。

 結婚式には当然病院の同僚も招待した。その中には竹藤先生もいたんだけど、彼女は終始私に鋭い目を向けていた。

 とてもじゃないが祝福しているようには見えず、やはり三浦先生とは関係があるのかもしれないと不安にもなった。
 その予感は見事に的中し、結婚式から数日後に彼女から呼び出されたのだ。

 そこで敵意を隠すことなくこう言われた。「可哀想に、三浦君は病院のためにあなたと愛のない結婚をしたのよ」って。
 さらに「三浦君の仕事の邪魔だけはしないで。外科医専門医取得に向けて、今が一番大切な時期なんだから」とも。

 彼女の口ぶりから彼とは親密な関係が窺えた。つまり彼が私と結婚したのは、父の会社との関係悪化を危惧してのことだったのだろう。

 本当、結婚前に言ってくれたら、父は娘の縁談がだめになったくらいで取引を止めるような人ではありませんと伝えることができたのに。

 竹藤先生の言う通り、彼は愛のない結婚をしたのだとすぐに悟った。まとまった休みが今は取れないから、落ち着いたら行こうと言われていまだに新婚旅行に行っていない。