政略妻はもう終わりにするはずが、冷酷外科医は永久溺愛で離さない

 照れくささを感じながら私も彼が医者を志した理由を知りたくなって、「三浦先生はなぜ医者を目指されたのですか?」と聞いてみた。

「そうですね。……なにかそれらしい理由があればいいのですが、残念ながらそういうものはなく、父が医者なので自然と自分も将来は医者を目指すようになりました」

 たしか三浦先生はひとり息子だった気がする。それなら後継者として医者を志すしか道はなかったのかもしれない。

「人の命を預かるのですから大変な仕事ですが、やりがいもありますし、毎日が勉強で新しい発見もあって毎日が楽しくもあります。そう思うと、天職だったのかもしれません」

 真剣な面持ちで語られた話を聞き、実に彼らしいと思ってしまった。

 いつの間にか緊張も解けていて、仕事の話ばかりだったが思いのほか話が続いた。プライベートな話はいっさいしなかったけれど、彼の仕事に対する思いを聞くことができた。

 結局この日は私たちの関係について言及することはできなかった。でもまた次に会う約束をしたので、次回こそ話そうと思っていたけれど……。

 次にふたりで会ったのは休日で、朝から動物園へ向かった。最初は会話が続かなくて気まずさを感じたものの、彼から獣医の友人がいるようで、動物の生態についていろいろと話を聞かせてもらっているうちに打ち解けていった。

 家族連れが多く、園内には小さな子供が走り回っていた。三浦先生の動物の解説が楽しくて聞くのに夢中になっていた私は、前から走ってきた子供に気づくことができずにぶつかってしまったのだ。

「危ない!」

 その時、倒れそうになった私を彼が支えてくれた。至近距離で見る彼の顔に、心臓が止まりそうになる。

「大丈夫でしたか?」

「は、はい……」

 心配してくれている彼には申し訳ないが、胸が苦しくてつらい。ぶつかった子供が謝ってきて三浦先生が離れてからも、胸の高鳴りはなかなか収まりそうにない。この日も結局話を切り出すことができなかった。

 その後も三浦先生とは頻繁に会うようになり、いつも最初は気まずい空気が流れるが、決まって彼から話題を振ってくれて、最後には楽しんでいる自分がいた。

 話すことは仕事のことが多いけれど、彼の真面目な一面を垣間見ることができて、きっと話をするのが苦手なはずなのに、私の緊張を和らげようとしているのが伝わってきた。

 会う回数を重ねるごとに彼に対する気持ちは憧れから、次第に恋心へと変化していった。それと同時に、たとえ最初は愛がないとしても、彼となら結婚生活の中で気持ちを通わせることができるのではないかという期待も抱くようになった。

 それは三浦先生の口から竹藤先生の話はいっさい聞くことはなかったし、私との距離を縮めようと努力してくれていると感じたから。