政略妻はもう終わりにするはずが、冷酷外科医は永久溺愛で離さない

 急に話しかけられてびっくりした。でも、三浦先生もそれだけ気まずい空気だったのかもしれない。

「三年前に亡くなった祖母がきっかけでした。祖母は若い頃から糖尿病を患っていまして、それでもまだ軽度だからと食べたいものを食べたいだけ食べていたんです。そうしていたら、糖尿病腎症一歩手前まで悪化してしまい、ゆくゆくは透析しなければいけなるとまで医者に言われてしまいました」

「それは、さぞかしおばあ様もショックを受けられたでしょう」

「はい」

 彼は食べる手を止めて、私の話に耳を傾けた。

「インスリン注射も始まり、家族も透析を覚悟していたのですが、栄養指導をしてくれた管理栄養士の方が熱心に祖母の食生活をサポートしてくれて、みるみるうちに回復していったんです」

 最初は嫌々始まった食事療法だが、祖母を担当してくれた管理栄養士が親身に祖母の話を聞き、力になってくれて祖母も次第に乗り気になっていった。

「祖母があまりにすごくいい人だ、繭子にも会わせたいって押し切られて一緒に栄養指導を受けたところ、すごくわかりやすくて、祖母をやる気にさせるのがうまい人で」

 その時の祖母の様子を思い出すと、今でも笑えてしまう。

「それから何度か祖母と一緒に指導を受けているうちに、私もこんな風に患者に寄り添える栄養士になりたいって思うようになったんです」

「そうだったのですね」

「それと尊敬する管理栄養士さんと一緒に働きたいという夢も叶えるために、大学で学んできました」

「一緒に働きたい? それでは……」

 そこまで言いかけた三浦先生に向かって、私は大きく頷いた。

「夢は叶いました。当時、祖母を担当してくれた管理栄養士は、田口室長なので」

 真紀さんも私のことを覚えてくれていて、配属初日にびっくりしていた。そして真紀さんに憧れて管理栄養士になったこと、一緒に働きたいと思っていたことを伝えたところ、涙ながらに喜んでくれたことが今でも鮮明に記憶に残っている。

「田口室長でしたか。……たしかに彼女は、誰よりも患者に寄り添っていますね」

「はい、今でも目標とする人です」

 毎日が勉強で、まだまだ彼女から学ぶことが多い。

「以前から田口室長と仲の良さが窺えていましたが、そんな縁があったとは驚きました。……素敵な関係ですね」

 社交辞令だとわかってはいるが、少しだけ表情を柔らかく崩して言うものだから、ドキッとしてしまうし、真紀さんとの関係を素敵と言われて嬉しくもなる。

「ありがとうございます」