週末の朝。
カーテン越しに入る日差しは、春の匂いを含んでやわらかかった。
ベッドの上でストレッチをしていた美羽のスマホが、
急にポン、と軽い音を鳴らした。
画面を開くと、そこには弾むような絵文字と共に、見慣れた名前が躍っていた。
『美羽ちゃーん!お久しぶり!
私も高校生デビューしたよ♪
土曜日美羽ちゃんと遊びたいなー!!♡』
「鈴ちゃん……!」
思わず声が漏れた。
嬉しさが一気に体の芯まで広がっていく。
(そういえば……)
ふと、数日前の椿の言葉を思い出した。
『あいつ、弁護士目指してるらしいからな。
俺とは次元が違ぇんだよ。』
無自覚に自分も相当高い偏差値の学校のトップなのに、
さらっと言う椿に美羽は遠い目になった。
「いや……あなたも十分次元違うんだけど……
恐るべし北条兄妹……」
*
準備を整えながら、美羽は鏡に映る自分に満足げに頷いた。
「よしっ。今日はナチュラルメイク……完璧!」
今日のために買った新しい白のふわふわニット。
水色チェックのミニスカ。
軽やかな黒ブーツ。
髪はハーフアップで春らしく。
鏡に向かって一回転。
「……よしっ!今日は女の子同士のデートだもんね!」
心が弾んで仕方がない。
駅に向かう途中、すれ違う人々がぼんやり美羽を見つめ、
頬を赤くして振り返る。
だが当の本人はまったく気づいていなかった。
*
駅の改札前。
待ち合わせ場所には、もう鈴の姿があった。
しかし――。
「ん……?」
空気がどこか不穏だった。
鈴の前に立つのは、見た目ばかりチャラい男が2人。
へらへら笑いながら鈴に絡んでいる。
「ちょっと……友達と待ち合わせしてるんです!やめてください!」
「えー?ほんとにぃ?
こんな可愛い子と会えるなんてさー、
俺らも一緒に待ってていい~?」
男たちは門限を破った中学生のような顔でニタニタ笑っていた。
その瞬間――。
美羽の中で、何かがパチンとはじけた。
次の瞬間、鈴の背後へ無音で回り込んだ美羽は……
ドガァッ!!
躊躇なく、男二人の背部めがけて回し蹴りをくらわせた。
「がっ!?」「うおっ!?」
男たちは見事にうずくまり、しゃがみ込む。
美羽は仁王立ちのまま、冷めた目線を落とした。
「その子のお友達ですが、何か?
……あ、もう警察に通報したから。逃げるなら今のうちよ?」
「……っち、なんだよ!くそっ!
ってか……可愛いじゃねぇかよっ!!」
男たちは文句を言いながら逃げていった。
(え?)
美羽は心の中で小首を傾げた。
「み、美羽ちゃん!!」
鈴が涙目で美羽に飛びつく。
小柄な体がぶつかってきて、美羽の胸にすっぽり収まった。
「美羽ちゃん、怖かったぁ……!」
「鈴ちゃん、大丈夫? ごめん、来るの遅れちゃって。」
「ううん!美羽ちゃんが来てくれて……ほんとよかった!
ところで警察の人は……?」
「あ、あれ嘘だよ。」
「えぇーー!!迫真の演技だね、美羽ちゃん……!」
鈴は目を丸くして感心していた。
そこで美羽はふわっと微笑む。
「それより、鈴ちゃん。難関高校合格、おめでとう!」
鈴の顔はぱっと花が咲いたように嬉しそうになった。
「ありがとう……美羽ちゃん!」
二人は笑い合い、強く手を握り合った。
*
春の風が揺れる中、
二人は寄り添いながらファミレスへ向かって歩き始めた。
白いニットが揺れ、
鈴の黒髪も春光の中できらめく。
どこか姉妹のような二人の背中は、
暖かな春の空の下で並んでいた。
カーテン越しに入る日差しは、春の匂いを含んでやわらかかった。
ベッドの上でストレッチをしていた美羽のスマホが、
急にポン、と軽い音を鳴らした。
画面を開くと、そこには弾むような絵文字と共に、見慣れた名前が躍っていた。
『美羽ちゃーん!お久しぶり!
私も高校生デビューしたよ♪
土曜日美羽ちゃんと遊びたいなー!!♡』
「鈴ちゃん……!」
思わず声が漏れた。
嬉しさが一気に体の芯まで広がっていく。
(そういえば……)
ふと、数日前の椿の言葉を思い出した。
『あいつ、弁護士目指してるらしいからな。
俺とは次元が違ぇんだよ。』
無自覚に自分も相当高い偏差値の学校のトップなのに、
さらっと言う椿に美羽は遠い目になった。
「いや……あなたも十分次元違うんだけど……
恐るべし北条兄妹……」
*
準備を整えながら、美羽は鏡に映る自分に満足げに頷いた。
「よしっ。今日はナチュラルメイク……完璧!」
今日のために買った新しい白のふわふわニット。
水色チェックのミニスカ。
軽やかな黒ブーツ。
髪はハーフアップで春らしく。
鏡に向かって一回転。
「……よしっ!今日は女の子同士のデートだもんね!」
心が弾んで仕方がない。
駅に向かう途中、すれ違う人々がぼんやり美羽を見つめ、
頬を赤くして振り返る。
だが当の本人はまったく気づいていなかった。
*
駅の改札前。
待ち合わせ場所には、もう鈴の姿があった。
しかし――。
「ん……?」
空気がどこか不穏だった。
鈴の前に立つのは、見た目ばかりチャラい男が2人。
へらへら笑いながら鈴に絡んでいる。
「ちょっと……友達と待ち合わせしてるんです!やめてください!」
「えー?ほんとにぃ?
こんな可愛い子と会えるなんてさー、
俺らも一緒に待ってていい~?」
男たちは門限を破った中学生のような顔でニタニタ笑っていた。
その瞬間――。
美羽の中で、何かがパチンとはじけた。
次の瞬間、鈴の背後へ無音で回り込んだ美羽は……
ドガァッ!!
躊躇なく、男二人の背部めがけて回し蹴りをくらわせた。
「がっ!?」「うおっ!?」
男たちは見事にうずくまり、しゃがみ込む。
美羽は仁王立ちのまま、冷めた目線を落とした。
「その子のお友達ですが、何か?
……あ、もう警察に通報したから。逃げるなら今のうちよ?」
「……っち、なんだよ!くそっ!
ってか……可愛いじゃねぇかよっ!!」
男たちは文句を言いながら逃げていった。
(え?)
美羽は心の中で小首を傾げた。
「み、美羽ちゃん!!」
鈴が涙目で美羽に飛びつく。
小柄な体がぶつかってきて、美羽の胸にすっぽり収まった。
「美羽ちゃん、怖かったぁ……!」
「鈴ちゃん、大丈夫? ごめん、来るの遅れちゃって。」
「ううん!美羽ちゃんが来てくれて……ほんとよかった!
ところで警察の人は……?」
「あ、あれ嘘だよ。」
「えぇーー!!迫真の演技だね、美羽ちゃん……!」
鈴は目を丸くして感心していた。
そこで美羽はふわっと微笑む。
「それより、鈴ちゃん。難関高校合格、おめでとう!」
鈴の顔はぱっと花が咲いたように嬉しそうになった。
「ありがとう……美羽ちゃん!」
二人は笑い合い、強く手を握り合った。
*
春の風が揺れる中、
二人は寄り添いながらファミレスへ向かって歩き始めた。
白いニットが揺れ、
鈴の黒髪も春光の中できらめく。
どこか姉妹のような二人の背中は、
暖かな春の空の下で並んでいた。



