夏の匂いが、校舎の窓からほんのり忍び込んでくる朝。
美羽が久しぶりに学校の昇降口へ足を踏み入れた瞬間――
「みーはーねっ!!」
後ろから勢いよく肩を掴まれた。
「うわっ!?り、莉子!?びっくりしたぁ!」
莉子は頬をぷくっと膨らませ、美羽の腕をぎゅっと掴む。
「もうっ!本ッ当に心配したんだから!!
1週間も休むなんて、連絡なかったら泣くところだったよ!」
美羽は苦笑して、「ごめんね、心配かけちゃって。」と頭を下げた。
先生から「安静に」と言われて休んでいたけど、
その間も、美羽はほぼ毎日黒薔薇メンバーの見舞いに通っていた。
莉子はふいに表情をゆるめ、ふにゃっと笑った。
「そういえば!お兄ちゃんがさ、しばらく日本に滞在することになったんだよね〜。
1ヶ月くらい家にいるんだって。
なんかさ、椿くんと仲直りしたみたいで、毎日めっちゃ機嫌いいの!」
美羽「へ、へぇ……(いや絶対、理由は別にあると思うんだけどな…)」
秋人のことを思い出し、美羽の心臓が微妙に痛い。
莉子は美羽の顔を覗き込み――
「あ、そういえばさ!!
美羽の話するときだけ、めっちゃ嬉しそうにするんだよ?
美羽さぁ〜〜いつの間にお兄ちゃんと仲良くなったのよ!?ずるいじゃん!」
「え!?いやいやいや!!」
美羽は顔をぶんぶん振る。
「あのね!?椿くん達のお見舞いでちょっと話したくらいで!
仲良くなんてなってないからっ!」
莉子「え〜美羽のばかぁ!私の美羽なのに、お兄ちゃんばっかりぃ〜!」
(やっぱり兄妹だ……)
美羽は心の中でそっとため息をついた。
*季節は移り、夏の入口へ
1ヶ月後。
椿たちは無事退院し、黒薔薇学園にはまた日常が戻ってきた。
そんなある土曜の朝――
美羽の枕元でスマホが震えだす。
美羽「ん……椿くん?」
電話に出ると、椿の声がそっけなく、急だった。
『美羽。今から空港行く。用意しとけ』
「え?く、空港!?なんで!?椿く――」
プツッ。
通話はそこできれた。
「ちょ、ちょっとぉ!?話終わってないんだけど!?」
美羽は布団から飛び起き、制服から私服、バッグの中身まで大慌てで準備する。
(いやいやいや!空港!?
まさか…今から旅行?!んなわけないよね!)
慌てて玄関に向かうと、
遠くからバイクのエンジン音が近づいてくる。
ゴォォォォッ――
黒いハーレーが美羽の家の前で止まった。
風の中、椿が無造作にヘルメットを外す。
黒髪が揺れ、朝の光をすくって少しだけ金色に光った。
美羽「お、おはよ、椿くん!ってか空港ってなに!?どういうこと!?」
椿「は?莉子から聞いてねぇのか?
秋人が今日、アメリカに発つんだよ。」
美羽「――えっ」
椿「乗れ。急ぐぞ。」
あまりに自然な流れで言われ、
美羽は慌てて手をぶんぶん振った。
「え!?ちょ、ちょっと待って椿くん!?
またこれに乗るの!?前回のトラウマがまだ……!」
「美羽」
椿はニヤッと笑い、
ハーレーを軽く揺らした。
「時間がねぇんだ。
しっかり俺に捕まっとけよ?」
その笑顔に、心臓が跳ねる。
美羽「ま、またそれぇぇぇ!?
聞いてないんだけどぉぉぉ!!」
椿「うるせぇ、乗れ。」
結局、美羽は観念して椿の背中に腕を回した。
椿「よし……じゃ、行くぞ。」
ゴォォォォッ!!
美羽「ひゃあああああああああ!!?
椿くんんん!!やっぱりスピード出てるぅぅぅ!!」
椿「当たり前だろ、間に合わねぇからな!」
風が頬を切り、髪をなでる。
朝の光が街を横切り、二人を夏へと押し出していった。
空へ向かうバイクの背中で、
美羽は目を細めながら思った。
(秋人くん……行っちゃうんだ……
ちゃんと、笑ってお別れ、できるかな)
椿の背中はあたたかくて、頼もしくて――
美羽は少しだけ、ぎゅっと抱きしめた。
夏の風が、ふたりの背中を押した。
美羽が久しぶりに学校の昇降口へ足を踏み入れた瞬間――
「みーはーねっ!!」
後ろから勢いよく肩を掴まれた。
「うわっ!?り、莉子!?びっくりしたぁ!」
莉子は頬をぷくっと膨らませ、美羽の腕をぎゅっと掴む。
「もうっ!本ッ当に心配したんだから!!
1週間も休むなんて、連絡なかったら泣くところだったよ!」
美羽は苦笑して、「ごめんね、心配かけちゃって。」と頭を下げた。
先生から「安静に」と言われて休んでいたけど、
その間も、美羽はほぼ毎日黒薔薇メンバーの見舞いに通っていた。
莉子はふいに表情をゆるめ、ふにゃっと笑った。
「そういえば!お兄ちゃんがさ、しばらく日本に滞在することになったんだよね〜。
1ヶ月くらい家にいるんだって。
なんかさ、椿くんと仲直りしたみたいで、毎日めっちゃ機嫌いいの!」
美羽「へ、へぇ……(いや絶対、理由は別にあると思うんだけどな…)」
秋人のことを思い出し、美羽の心臓が微妙に痛い。
莉子は美羽の顔を覗き込み――
「あ、そういえばさ!!
美羽の話するときだけ、めっちゃ嬉しそうにするんだよ?
美羽さぁ〜〜いつの間にお兄ちゃんと仲良くなったのよ!?ずるいじゃん!」
「え!?いやいやいや!!」
美羽は顔をぶんぶん振る。
「あのね!?椿くん達のお見舞いでちょっと話したくらいで!
仲良くなんてなってないからっ!」
莉子「え〜美羽のばかぁ!私の美羽なのに、お兄ちゃんばっかりぃ〜!」
(やっぱり兄妹だ……)
美羽は心の中でそっとため息をついた。
*季節は移り、夏の入口へ
1ヶ月後。
椿たちは無事退院し、黒薔薇学園にはまた日常が戻ってきた。
そんなある土曜の朝――
美羽の枕元でスマホが震えだす。
美羽「ん……椿くん?」
電話に出ると、椿の声がそっけなく、急だった。
『美羽。今から空港行く。用意しとけ』
「え?く、空港!?なんで!?椿く――」
プツッ。
通話はそこできれた。
「ちょ、ちょっとぉ!?話終わってないんだけど!?」
美羽は布団から飛び起き、制服から私服、バッグの中身まで大慌てで準備する。
(いやいやいや!空港!?
まさか…今から旅行?!んなわけないよね!)
慌てて玄関に向かうと、
遠くからバイクのエンジン音が近づいてくる。
ゴォォォォッ――
黒いハーレーが美羽の家の前で止まった。
風の中、椿が無造作にヘルメットを外す。
黒髪が揺れ、朝の光をすくって少しだけ金色に光った。
美羽「お、おはよ、椿くん!ってか空港ってなに!?どういうこと!?」
椿「は?莉子から聞いてねぇのか?
秋人が今日、アメリカに発つんだよ。」
美羽「――えっ」
椿「乗れ。急ぐぞ。」
あまりに自然な流れで言われ、
美羽は慌てて手をぶんぶん振った。
「え!?ちょ、ちょっと待って椿くん!?
またこれに乗るの!?前回のトラウマがまだ……!」
「美羽」
椿はニヤッと笑い、
ハーレーを軽く揺らした。
「時間がねぇんだ。
しっかり俺に捕まっとけよ?」
その笑顔に、心臓が跳ねる。
美羽「ま、またそれぇぇぇ!?
聞いてないんだけどぉぉぉ!!」
椿「うるせぇ、乗れ。」
結局、美羽は観念して椿の背中に腕を回した。
椿「よし……じゃ、行くぞ。」
ゴォォォォッ!!
美羽「ひゃあああああああああ!!?
椿くんんん!!やっぱりスピード出てるぅぅぅ!!」
椿「当たり前だろ、間に合わねぇからな!」
風が頬を切り、髪をなでる。
朝の光が街を横切り、二人を夏へと押し出していった。
空へ向かうバイクの背中で、
美羽は目を細めながら思った。
(秋人くん……行っちゃうんだ……
ちゃんと、笑ってお別れ、できるかな)
椿の背中はあたたかくて、頼もしくて――
美羽は少しだけ、ぎゅっと抱きしめた。
夏の風が、ふたりの背中を押した。



