旦那様に夫(腐)人小説家だとバレてはいけない!



(なんて都合が悪いの……!)

 偶然とはいえ、鉢合わせのような感じがしてしまって気まずい。
 そして、アメリアの姿は出かける前の姿である。これについたなにか追求でもされたらたまったものじゃない、と思いながらもしっかりとお辞儀をした。

「おかえりなさいませ、旦那様」
「……ただいま」
「それでは、私はこれで」
「待て。この前ドレスを買ったばかりだろう、なのにそんな格好でどこに行くんだ」
(嘘でしょう……⁉︎)

 引き止められたことにがっかりしながらも、答えなければ余計怪しまれるだろう。かといって、素直に「新聞社に行き、書いた作品を返却してもらう」とはいえない。
 ドレスのことも、ウィリアムが言っていることはごもっともである。新聞社の人に公爵夫人であることをバレないために伯爵家にいた時の古いドレスを着ているが、ウィリアムからすればそれは不思議な光景だろう。とはいえ、この事情を説明するわけにもいかない。

「……旦那様には、関係のないことです」

 一番最悪な選択をしてしまった、とアメリアは言ったあとに後悔した。いくら相手が自分に興味を抱いてなかったとしても、あまりにもひどい言い方をしてしまった。

「……そうか。気をつけて行ってくるといい」

 これ以上引き止められることはなく、ウィリアムはサッサとこの場から去っていった。
 アメリアとリリーは唖然とし、思わず口があきそうだった。

「今のって旦那様……ですよね?」
「そのはず、だけど……」

 最初に一度引き止めたこともだが、相手の気を使うような言葉を言った彼に驚きが隠せないのであった。
 来たばかりの頃は冷たく、人にも自分にも厳しいと思っていたのが徐々に厳しい人ではないと思うようになったものの、思っていた以上に冷酷な人ではないのかもしれない。

(よくわからない人ね)

 あまり話したこともないせいで、アメリアは彼のことが今でもいまいちわかっていなかった。もっと知りたいと思っても相手は嫌がるだろうし、自分もいつかは捨てられる身であると覚悟をしている。愛されることを期待したが最後、だろう。

「奥様、馬車の用意もできたようです」
「ありがとう」
 
 アメリアは考えることをやめ、馬車に乗り込んだ。
 行き先で、嬉しい知らせを聞かされることを知らないアメリアは少しだけショックを引きずりながら馬車の窓から外を眺めていた。