旦那様に夫(腐)人小説家だとバレてはいけない!



(……それはそう、よね)

 そこにアメリアの名前はなかった。
 三人ほどの作家の名前が並んでおり、選ばれた作品はミステリーや恋愛といった続きが気になる内容のものであり、アメリアが書いていた友情ものは選ばれていなかった。
 どちらかと言えば、アメリアの作品は連載をするよりも一冊の本にする方が向いている作品であった。アメリアもこの結果を見てそれに気づき、ショックを受けつつもどこか冷静に分析をしていた。
 残念なことに、アメリアの作品は佳作などにも引っかかっていなかった。作者名を見ると女性もいるため、アメリアが女だから選ばれなかったというわけではなさそうだった。
 それでも全く期待をしていなかったわけではないため、アメリアは喪失感に襲われていた。いくら書きたいという欲があっても、それを続けるのは困難なことである。

「奥様……大丈夫ですか?」

 リリーが心配そうに声をかけた。
 アメリアが新聞を読み進め、様子が変わったあたりから察して黙って見守っていた。共に結果を見ることにしなかった理由は、アメリアのことを思い、無駄に気を遣わせたくなかったのだ。アメリアにもその気遣いの心は伝わっており、静かに頷いた後「大丈夫よ」と答えた。
 ここで落ち込んでいたところで先に進むことはできない。連載ができなかったとしても、作品を返してもらうことで著作権は自分に戻ってくる。加筆修正などをし、他の出版社に持ち込むことだってまだできる。
 この一作品だけが、アメリアの作品というわけではない。
 結果が出るまでの数週間、アメリアは同じシリーズの作品を書きながら新しい作品を書くこともしていた。
 新しい作品は男女の恋愛ものであり、それは意外な選択でもあった。
 アメリアが書きたいのは男性同士の恋愛ではあるが、それを題材にした物語を書くことはできない。そこでアメリアは、男女の恋愛を書くと同時に三角関係になるようなものを書いていた。とある男爵と平民の女性の恋愛物語であり、男爵の幼馴染が恋のライバルという設定だった。読む人が読めば、その三角関係のきっかけとなっている幼馴染が想いを寄せているのは平民女性の方ではなく、男爵本人であるとわかるような内容だった。

(内容としてはハッピーエンドになるけど、男性同士の恋愛でハッピーエンドにならないところが残念よね……)

 仕方のないことだが、アメリアはそれが残念でたまらなかった。本当に書きたいものがあるのに書けないというもどかしさが消えることはない。でも、世間がそれを許さないのであればアメリアにはどうすることもできない。できる範囲で楽しむしかないのである。

「リリー、出かける用意を。新聞社に行って作品を返してもらいましょう」
「かしこまりました」

 リリーはすぐにドレスの用意をし始めた。
 落ち込んでいる時間があるならすぐにでも行動をした方が良い。
 すぐに着替え、身なりを整えてから部屋を出た。急ぐと他の使用人たちの目が怪しむものになるため、できるだけ優雅に歩くが内心は「早く作品を返してもらい、あわよくば何かコメントを頂きたい」という気持ちだった。
 広い屋敷にうんざりとしながらも玄関にたどり着けば、ちょうどウィリアムが帰宅したところだった。