(まさか、本当に過去へ戻ったというの?)
鏡に映し出された姿というのは、十年前に見た時の姿と同じだった。
健康的な肌色、髪の毛は長く痛みもなく、痩せこけた頬もなくて肌艶も良い。
あまりにもあり得ない状況に頭が混乱し、頭痛もしてきた。
(でも、本当に戻れたのだとしたら、こんなチャンスは使わないと)
気が付けばさっきまであった不安はなくなっており、不思議と生きる気力も湧いてきている。
体が軽く、とても調子が良い。なんでもできるような気さえする。
これが死ぬ前に見ている最後の夢でもいい。自由にできるチャンスを神様がくださったのなら、このチャンスを使いたい。
「終わりました」
リリーの声でハッとした。どうやら身支度が終わったらしい。
アメリアはお礼を言いながら立ち上がり、食堂へと向かった。
(過去に戻ったとしても、気は重いままね)
少しため息を吐きながら、自分の旦那と食事をするために部屋を出た。
食堂に向かえば、そこには旦那様であるウィリアム様がすでに座っていた。私の到着の方が遅かったらしい。
「おはようございます。旦那様」
「……」
今日も返事はない。
いつもこうだった。声をかけてもこれといった反応はしない。
家に関わることについて質問をした時や、お金を使ってもいいかどうかを聞いた時くらいにしか反応をしてくれない。


