「奥様、もうそろそろで旦那様が帰宅するそうです。お出迎えに行きますか?」
少し様子を伺うように、リリーは聞いた。だがアメリアは少しだけ考えた後、首を横に振った。出迎えたところで大した返事ももらえず、会話もできないのだから意味もないだろう。それに、彼はきっと自分の顔をそんなに見たくはないだろうとアメリアは考えた。それなら多少待たされるとしても、食卓に彼が来るのを一人で待っていた方がまだいい。
二人の足は玄関に向かうことなく、そのまま食堂の方へと向かった。歩きながら、アメリアは先ほどの不安を思い出した。彼に何かを責められたらどうしよう、とまた考え始めてしまったのだ。本棚の購入には許可をもらっているが、ドレスの方にはもらっていない。どうやら領収書はすでにリリーが執事に渡したようなので、彼がそれを確認した時に疑問を覚えて仕舞えば何かを言われてしまうかもしれない。
不安で緊張をしながら中に入って椅子に座ること十数分、ウィリアムが少しだけ疲れたような顔をして入ってきた。
「こんばんは」
「……ああ」
何度繰り返したって変わらないこの挨拶。
ここで板割りの言葉をかけても変に思われて終わりだ。いつものように特に会話のないまま食事が進んでいく。
(もしかして、何も言われない……?)
食事はすでにデザートまで進んでいた。それまでの間、ウィリアムは一切話をしようとせず、もっと言えばアメリアの顔すら見ようとしなかった。
リリーの言うように、彼はドレスを買っただけでは何も言わないのかもしれないと思った。もしくは、帰ってきたばかりでまだ領収書を確認していないのか……。
「……ところで」
「ッ! はい!」
思わずカトラリーを落とすところだった。
ウィリアムからアメリアに話しかけることなどなかったのに、終わりかけの頃に彼が口を開いたのだった。だが表情は一切変わらず、いつも通りの無表情であった。
「買い物に行ったと聞いたが、無事に買えたのか?」
「は、はい……おかげさまで、良い本棚を買うことができました。それと……その、外出用のドレスを数着購入しました。旦那様に聞く前に買ってしまい、申し訳ありません」


