旦那様に夫(腐)人小説家だとバレてはいけない!


 リリーは自分が仕えている人と買い物に行く経験は少なかった。お使いを頼まれて買い物をするために街へと行くことはあっても、人との買い物というのあまりなかった。そのため、今日の買い物ではアメリアよりも楽しんでいた。
 嬉しそうにしながら話すリリーの様子を見て、アメリアは安心した。主人として、自分はふさわしくないとアメリアは考えている。アメリアは今日の買い物で、改めて自分が世間知らずの貴族であると自覚した。金銭感覚もドレスの大事さも、何もわかっていない。そして、一店舗目のドレスやで自分が守られるだけだったことにも悔しい思いをしていた。何も言い返すことができず、結局それに対する仕打ちはリリーが言った。公爵夫人としての威厳というものを持っていないことに申し訳ない気持ちになっていた。

「……こんな私でも、これからもよろしくね」
「もちろんです、奥様!」

 リリーは満面に笑みで答えた。その顔を見たアメリアはなんだか、少しだけここに信頼が生まれたような気がした。前世でもリリーは侍女としてアメリアに仕えていたがそこに信頼があるかと聞かれれば、なかった。
 ウォーカー家当主のウィリアムからの命令で仕事をしていただけであって、リリーはアメリアに対してなんの期待もしていなかった。期待をしたところで、前世のアメリアは家庭のことも何もせずに一日の大半を散歩やお茶、ぼーっとすることで終わらせていた。ウィリアムとの間に子どもでも生まれていれば育児に励むことができたのだろうが、それもなかった。挙句の果てにはアメリアは病気となって死に至った。そんなアメリアに期待と信頼を持って仕えるのは難しい話だろう。
 だが、今世は違う。アメリアは今度こそ自分の人生が豊かになるように願い、動いている。実際、今も買い物に行くことができ、家に帰れば自分の好きなように執筆をすることができる。今までと比べれば、圧倒的に充実した毎日になっている。

(……もっと早く、こうしていれば前世も違ったのかしら)

 そんなことを考えるが、もし前世に行動を起こしていてもきっと今のようにはいかなかっただろう。小説を読んでいたとしても書くことはしなかったかもしれないし、ウィリアムに興味を抱かれていないことをわかっていてもそのことで悩むことも今以上に多くなっていたかもしれない。前世での経験があるからこそ、ここまでの行動ができているのだろう。
 馬車が家に到着し、降りて家の中へと入る。当たり前だがウィリアムの出迎える姿などなく、そのまま流れるように自室へと向かった。外出用ドレスから室内用のドレスに着替え、幾分か楽になった格好でソファに座る。まだドレスも本棚も届いていないが、数日間の間に今日買ったものが自室に来るというだけで胸は高まっていく。