旦那様に夫(腐)人小説家だとバレてはいけない!



「……わかったわ。でも、恥ずかしいことに私はドレスを一人で買ったことがないの。リリー、一緒に選んでくれる?」
「ッもちろんです、奥様! それではドレスを買った後に本棚を買いに行きましょう」
 
 そうして、身支度を終えたアメリアは外に出た。正直このドレスで買い物に行くのは恥ずかしいことだが、着る物がないのだから仕方ない。
 馬車に乗り込み、街へと向かう。車内での会話は、どんなドレスが良いかなどの話だった。

「奥様はどんなものが好みですか?」
「好み……も、特にないわね」
「そうですか……でも、奥様はスタイルもお顔もとても綺麗ですから、なんでも似合いそうです」
「……そんなことないわ。でも、ありがとう」

 馬車はあっという間にドレス屋に到着した。御者の手を借りながら馬車から降り、ドレス屋の中へと足を踏み入れる。
 するとそこにはたくさんの布や綺麗なドレスが並んでおり、目移りしてしまうほどに煌びやかで華やかだった。それを見ただけでアメリアの心は動き、胸が高鳴った。

「いらっしゃいませ。御用は?」

 奥から店主らしき人が出てきた。店主はちらりとアメリアの姿を見て(なんだ、大した客じゃない)と思った。
 それもそのはず、アメリアの今の姿というのは田舎の貴族のような格好をしている。そんな格好であれば店主も気が抜けてしまうだろう。

「こんにちは。外出用ドレスを何着か購入したくてきました。何かおすすめはありますか?」
「おすすめ……そうですね、ここには奥様におすすめできるようなものはございません」
「え……」
「な、あんまりではありませんか⁈ 私たちはお客ですよ!」

 リリーは思わず声を荒げた。あまりにも酷い対応に腹を立てたらしく、彼女の顔は怒りで赤く染まっている。
 アメリアの方は唖然としていた。嫁いでからの初めての外出で、初めてのお店で心が躍っていたというのに急に冷めたような感覚に襲われた。

「ですが、奥様に合うものはここにはありません。それに、支払えるかどうか……わかったもんじゃありません」

 店主は馬鹿にするような言い方で、あまりにも酷い言葉をぶつけた。
 見た目でしか判断のできない店主に流石のアメリアも怒りが沸々と湧いてきた。かといって反論をすることはできない。アメリアは自分があまりにも弱いと思った。

「……奥様、違うお店に行きましょう。旦那様が契約しているところは他にもあります」
「……契約?」

 店主は耳を疑った。
 契約、とはいったいなんのことだと思った。契約といえば、貴族とドレスの仕立てを契約している家もあれば材料を卸してくれる企業もある。
 ウィリアムが経営している布屋があり、アメリアたちはその布を卸している店に来ていた。

「この方は、ウォーカー家の夫人です。あまりにも無礼な態度を見逃すことはできません。このことはウィリアム様に報告させていただきます」

 リリーは強気で答えた。アメリアはそのリリーの姿に驚きながらも尊敬し、自分の頼りない態度に申し訳なく思った。
 店主の方はといえば慌てながら弁明しようとしていたがすでに遅かった。

「も、申し訳ありません! まさかウォーカー公爵夫人だったとは……! どうか、どうかご勘弁を……!」
「……すみません」

 アメリアは必要がないにも関わらず、謝った。
 ここまで来ると怒る気にもなれず、もはや店主がこんなに狼狽えるほどのことをしてしまったことへの罪悪感はあった。だが、ここで自分が許してしまえば公爵家の威厳がなくなると考え、せめてもの言葉を出したのだった。

 二人が店を出ようとした際、店主は絶望に浸った声で「もう、おしまいだ……」と呟いた。