旦那様に夫(腐)人小説家だとバレてはいけない!



「こ、こんばんは……」
「……あぁ」

 相変わらず冷めた反応だった。
 アメリアが何かを注文していることは知っているのに、それに言及すらしない。「最近はどうだ?」などの気遣いの質問も全くない。逆に、こちらが聞けば結婚するときの「干渉をしない」という条件が破られてしまう。
 彼が座ったことで夕食が運ばれてきた。変わらず、会話のないまま食事を進める。静かな空間に食器にナイフやフォークが当たる音しかしない。最初の頃は気まずいと思っていたが、今ではすっかり慣れてしまった。

(そろそろ聞いてもいいかしら)

 テーブルにはデザートが運ばれてきてしまった。これを食べればウィリアムは自室に戻ってしまい、アメリアはまた明日まで聞く機会を逃してしまう。

「あ、あの。旦那様」
「……どうした」
「え、っと……その、」

 どうしても緊張してしまい、アメリアはどもってしまった。だがウィリアムはそんなアメリアを気に留めることなく、デザートを食べ続けている。急かされたり、きつい言葉を投げかけられるよりはマシだろうがあまりの無関心さにもはや驚く。

「本棚が、ほしいです……ッ」

ウィリアムはデザートを食べていた手をピタッと止め、アメリアの方を見た。アメリアは無事に言えたことにドッと疲れて顔を少しだけ赤くさせている。
 ウィリアムは驚きの表情を浮かべていた。数時間前にリリーが驚いていたように、ウィリアムも驚いたのだ。伯爵生まれの令嬢が本棚の購入に許可を求めるとは思っていなかったのだ。
 高級なドレスやアクセサリーをたくさん買われると“公爵夫人は浪費家”という噂が流れる可能性もある。それは困るからと執事に領収書を渡すように頼んでいたがそれらを購入した形跡はなく、買ったものといえば紙やインクなど。もしくは、気を緩ませた時にでも高い買い物をするのではないかとウィリアムは思っていた。
 だが、実際はどうだ。緊張しながら本棚が欲しいとねだるのは予想もしていなかった。好きにかって、費用もいくらかけても良いと伝えたはずだ、とウィリアムは戸惑った。