旦那様に夫(腐)人小説家だとバレてはいけない!



(旦那様にお願いをするのも、気が引けるわね……)

 十分なほどの部屋に、すでに紙やインク、小説本なども買ってもらっている。
 これ以上お願いするのは嫁いだ人間としてお願いがしにくい。

「奥様、どうかなさいました?」

 悩みの表情を浮かべていたことで心配をしたのか、リリーはおずおずと聞いてきた。

「……迷っているの」
「迷っている、ですか?」
「ええ。この買い物をしても良いのかどうか」

 リリーは思わず驚いた。今や公爵夫人ともあろう方が、元は伯爵令嬢であったアメリアが買い物に悩む必要があるのか、と驚いたのだった。
 いったいどれだけ高い買い物をしようとしているのかが気になったリリーは彼女に「何を買うことに悩んでいるのですか?」と聞いた。新しいドレスでも欲しいのか、それとも豪華な宝石がついたアクセサリーが欲しいのか、その辺りだとリリーは考えた。

「本棚と、話を書いた紙を保存するための箱や棚が欲しいと思っているのだけど旦那様に迷惑よね」

 アメリアは小さくため息を吐いたが、リリーは呆気に取られていた。自分が仕えている奥様が、本棚を一つ買うのに躊躇をしているだなんて想像すらしなかった。
 確かに家具というのは高い買い物になり、平民たちは簡単に買うことはできないだろう。だが、貴族であれば別だ。
 貴族であれば流行り物を常に追いかけて、それを身につけたり購入するのが当たり前だ。中には流行しそうなものに投資をする貴族だっている。ウィリアムも流行を抑え、それで商売をしたり契約をすることだってある。
 流行を追いかけない貴族などほとんどおらず、むしろ流行に置いていかれていると知られれば社交界では笑いものになってしまう。流行りの高級ドレスを仕立てるより、本棚を何個か買う方が費用は安く済むだろう。