旦那様に夫(腐)人小説家だとバレてはいけない!




 それからというもの、食事の時以外は部屋に篭るようになった。
 リリーは一心不乱に書き続ける様子を見て心配になった。公爵夫人でもあるアメリアが、書き物に夢中になっていても良いのだろうか。
 いくらウィリアムがアメリアに興味がないからと言って、こんなにも好きに書いていてもいいのかが心配だった。でも、ウィリアムがアメリアに興味を持っていないのは周知の事実だった。ウォーカー家に仕えている侍女や執事たち、誰に聞いても一人残らず「旦那様は奥様に興味がない」と答えるだろう。

「リリー。旦那様に紙とインク、ペンの注文をしてほしいと伝えて」
「……かしこまりました」

 あの一晩でたくさんの文章を書いたにも関わらず、アメリアの書く手が止まることはなかった。本棚を注文することさえ渋っていたアメリアは紙やインクに関しては渋らず、何度かウィリアムに注文をしてほしいと頼んでいた。
 気づけば書き上げた枚数はとんでもない量になっており、リリーも管理をするのが大変になっていた。捨てるわけにもいかず、ただただ紙の束として部屋の端に積まれている。いつかこの紙のタワーも崩壊するだろう。
 
 リリーは、少し気が重いと思いながらウィリアムの執務室のドアを数回ノックした。
 中から「入ってくれ」という声が聞こえ、リリーは申し訳なさそうにしながら部屋の中へと入った。

「……どうした」
「失礼します。奥様が紙とインク、そしてペンを注文したいとのことで参りました」

 ウィリアムは「またか」と思いながらため息を吐いた。
 注文をすることに反対するわけではない。ただ、こんなにも短期間に何度も「注文をして欲しい」と言われれば面倒にも思えてくる。
 自分の妻は、一体何をしているというのだ。

「注文票を渡すから好きに買っていいと伝えてほしい。費用はいくらでも構わないが、領収書は執事に渡すようにしてくれ」
「かしこまりました」

 リリーは一度礼をしてから、ウィリアムの執務室を去った。
 その様子を見たあと、ウィリアムは椅子に深く座り直して考えた。アメリアがこんなにも急に頼みごとをし始めるのが不思議だった。
 この家に来て数ヶ月が経過しても、彼女との会話はほとんどなかった。
 何かが欲しいと言うわけでもなく、食事を共にするだけの夫婦関係。それにも関わらず、最近の彼女は何か生き生きとしているように見える。前は暗そうな顔をしていたというのに今では目に輝きを持ち、なんだか楽しそうにすら見えた。

「まあ、それくらいか」

 言ってしまえば、それくらいだ。
 宝石が欲しいと強請るわけでもなければ、新しいドレスや買い物に行きたいと言うわけでもない。聞けば彼女は部屋にこもって何かをしているらしい。紙とペンを欲しがっていることから、勉強や何かをしているのだろう。
 別に彼女が勉強しようが、何をしようがそこまで関係ない。公爵家に危険が伴わないのであればそれでいい。
 そこまで考え、ウィリアムは仕事へと戻った。