旦那様に夫(腐)人小説家だとバレてはいけない!



(いつかは家の管理も任せてもらうようにならないと……)

 長い道のりになるだろうが、人生をやり直せるのであれば今世こそ妻の役割を果たしたい。
 彼の興味関心を引きたいわけでもないが、唯一の食事の時くらいは良いものにしたい。だが、この調子ではまず無理だろう。

(でも、旦那様が私に興味がない時点で活動を始めたいのよね)

 妻としての役割を果たしたいのも本音だが、自分だけの財産も欲しい。
 公爵家が潰れることはないだろうし、ウィリアムが仕事に失敗をするとは思えない。少なくとも、前の十年間は成功ばかりで公爵家の財産は膨れ上がっていくばかりだった。
 もしなりたいと願っていた夢を叶えてそれが旦那様にバレたら、私は家を出て行かなければならないだろう。

(どうなるかはわからないけど、挑戦してみる価値はある)

 せっかくやり直せるチャンスがあるのだ。なりふり構っていられない。
 気づけば食事もデザートになり、食べ終えたころにはなんの挨拶もなくお互いに食堂を出ていった。

「リリー、お茶を一杯持ってきてちょうだい」
「かしこまりました、奥様」

 部屋に戻り、積み上げられた本を見てどれを読もうか考える。
 さっき読み終えたのは恋愛であり、ロマンチックな物語であった。それならば、緊張感が走る推理小説を読むのもいいかもしれない。
 積み上がった本たちから気になるタイトルを一冊見つけ、崩れないようにゆっくりと取り出した。
 ちょうどリリーもお茶を持ってきてくれたので、お茶の用意が終わったら休んでいても良いとの許可を出すと、リリーは一礼し、部屋を出ていった。

(さて……どんな話かしら)

 わくわくとした気持ちで本のページを捲る。
 どうやら物語の内容は探偵とその相棒が事件の解決を目指して徐々に成長をしていく物語らしい。探偵は優秀だが、その相棒はどこか抜けている。探偵がサポートをしながらも事件の解決へと物語は進んでいくがこの相棒もなかなかに鋭い眼を持っているらしく、探偵が気付かなかった視点で相棒が事件の核心へと近づいていく……そんな物語だった。
 
(もちろん物語自体もすごく面白いし、予想外な展開もあるから続きが気になってページを捲ってしまうのだけど、なんというか……この探偵と相棒、いいわね)

 落ち込む相棒に探偵が慰めたり、逆に探偵が事件のことで躓いている時には相棒が元気付けたりと……師弟愛もあるだろうが、それよりももっと違うようなものがこの物語には見えてくる。

(いや、おかしいわ。どう考えてもこれは恋愛物語ではないし、そもそも男性同士よ。男性同士で恋に落ちることなんてありえないし、おかしいことなのに、なのに……どうしてこんなにも、胸がときめくの?)

 恋愛小説を読んでいた時とは全く違う胸の高鳴り方に驚きながらも、興奮を抑えることができなかった。
 決定的な文言はないからこそ、自分の中での解釈が広がり、二人のもどかしさに胸の奥がきゅうと締め付けられる。
 こんなときめきは、生まれて初めてのことだった。