旦那様に夫(腐)人小説家だとバレてはいけない!

 食堂に食器の音だけが静かに響く。
 どちらも口を開く様子はなく、ただ黙々と食事をするだけ。

(……本の相談をしたいけど、もう少し先の方がいいわよね)

 あんなにたくさんの本を買ってもらえただけでも十分ありがたいこと。
 いくら公爵家とはいえ、嫁入りをしたばかりでこれ以上に欲しいものを言うのは失礼だろうと考えた。

「旦那様」
「……なんだ」

 相変わらずウィリアムはアメリアのことを見ないまま、食事を続けたまま答えた。
 無視をしないだけまだマシだろう。

「本、ありがとうございます。あんなにもたくさん届くとは思いませんでしたが、とても嬉しいです」
「そうか」

 会話終了。
 お礼を言ったところでウィリアムから何かを言われることはなく、必要最低限の会話のみ。せっかくなら本の感想でも言いたいと思ったが、高望みだろう。
 自分の死に際にですら会いに来なかった人が、出会って数ヶ月の妻に対して感情を持っている方がおかしい。それでも、もう少し会話というのはしたい。
 前世はあまりにも孤独のままだった。
 会話相手はリリーだけで、趣味であった読書はおろか、社交界にも出向く機会がなかなか無いまま人生を終えてしまった。
 十年も公爵夫人をやっていたというのに、ただのお飾りにしかすぎず、ウィリアムにとっても社交界の人々にとってもただ黙っているだけの人形のような存在だった。

(家のことすら、何もさせてくれなかったもの)

 この時代の女性たちは、結婚をしたら“家庭の天使”と呼ばれるような存在だった。
 結婚をした女性は家の主である旦那を支える存在。家を守って管理し、仕事に出かける男性をにこやかに送っては帰宅を待ち、出迎える。
 それにも関わらず、アメリアには一切の家の管理を任せてもらえなかった。最初は母の教え通りに彼を送り、出迎えようとしたが何回か繰り返した後に「いらない」とウィリアムに言われた。