※ウィリアム視点
「……本を?」
「はい、奥様からの申し出です。小説が欲しいとのことです」
(女が、小説を?)
女が小説を読むことは少ない。
女が娯楽に選ぶものといえばピアノや刺繍、お茶を嗜むことが多く、読書を好む女性は圧倒的に少ない。
厳格な父からのしつこい言葉で女と結婚をしたが、いまいちわからない。
結婚相手を探し始めた途端、多くの貴族がぜひにと自分たちの娘をこぞって紹介してきた。娘を連れて挨拶に来た者もいたが、それは最悪だった。
自分を見た瞬間声を上手く発せなくなる者、急に近寄ってくる者もいれば夜のことを匂わせながら言い寄ってくるはしたない女もいた。
いい加減うんざりし始めた頃にブラウン伯爵が夫人を連れて自分の娘はどうかと聞いてきた。
伯爵とは何度か仕事を共にしたことがある。確か悪くない仕事ぶりにも関わらず、最近の業績は落ちているのだとか。
話を聞けば娘に対してあまり愛情を持っていないのか、アピールにそこまでの熱意はない。
娘の方も恋愛をしたいだとかは思っていないそうで、私の評判を聞いてもそこまでの興味を示さないらしい。もしこれが本当であれば、伯爵に恩を売ることもできるだろう。
長い目で見れば良い契約になる。娘にそこまでの思いを抱いてないのであればそれを理由に会いに来ることもないだろう。


