「ところで話しは変わるが、
 セツはまだ来ないのか?
 メイドの居室に行っても帰って来てないようなのだが、
 何か王妃直属の用で、何処かに出てたりするのか?」
 
 王妃は昨夜の重要な何かを思い出した。
 「里に帰ってる」
 苦し紛れに、答える王妃。
「セツ実家はどのあたりにあるの?」
「元縁国の最北端の国境沿い」
 適当に答える。
 しばらく考え込む龍王…、
「セツを31番目の側妃にしたいんだ。
 王妃のメイドは、メイド長に人選頼んだら大丈夫だからどう思う?」
「諦めてくれ、
 セツには里に婚約者がいるから諦めてくれ」
「セツから聞いたのか?
 セツは王妃の影武者みたいな者だよね、
 背格好も似てるし、セツは美人だけど。
 王妃の側にいた方がいいと思うんだけど」
「だからこそ、自由にしてあげたい。
 龍王、この話は諦めてくれ」
 王妃は厄介ごとはこれ以上ごめだと、
 出鱈目だが、龍王の望みを奪う戯言を並べる。
「そうか、もう会えないのか?」
 龍王の王妃を握る手が強まる。
 反射的に顔を上げて龍王を見つめ返すと、

 ちくりっと、心が痛んだ。

「最後に、もう一度だけ帰って来るから。
 その時に合わせてやる」
「そうか、ありがとう」
 龍王は王妃に礼を述べると、これからのスケジュールの打ち合わせの話に流れた。