翌朝。
リディアは、目を覚ました。
頭が、重い。
目が、腫れている。
昨夜、泣き続けた後遺症だ。
窓の外を見る。
嵐は、過ぎ去っていた。
朝日が、差し込んでいる。
だが、リディアの心は晴れない。
リディアは、ベッドから起き上がった。
体が、重い。
何もしたくない。
ただ、ベッドに戻りたい。
その時。
扉の下から、何かが滑り込んできた。
白い、紙。
リディアは、立ち止まった。
そして、紙を拾い上げた。
手紙だ。
子供の、字。
リディアは、手紙を開いた。

「リディア先生へ」

エリスの字だ。
まだ、たどたどしい。
だが、一生懸命書いたことがわかる。

「私は、先生のおかげで生きています」

リディアは、息を呑んだ。

「先生が来る前、私はずっと病気でした」
「ベッドから、起き上がれませんでした」
「パパは、いつも悲しそうでした」

リディアの手が、震えた。

「でも、先生が来てくれました」
「先生のお薬で、私は元気になりました」
「今は、走れます」
「お花も、摘めます」

涙が、滲んでくる。

「パパも、笑うようになりました」
「パパが笑うなんて、ずっとなかったことです」
「先生が来てくれたから、パパは笑いました」

リディアの涙が、手紙に落ちる。

「先生は、私たちのヒーローです」

リディアは、声を上げそうになった。

「だから、泣かないで」
「先生が泣いていると、私も悲しいです」
「先生は、何も悪くありません」
「先生は、私たちを救ってくれました」

リディアは、手紙を握りしめた。

「ずっと、一緒にいてください」
「お願いします」

「エリスより」

手紙の下に、絵が描いてある。
下手な、絵。
子供が描いた、絵。
三人の人が、手を繋いでいる。
真ん中に、小さな女の子。
エリスだ。
右に、大きな男の人。
カイルだ。
左に、女の人。
リディアだ。
三人が、笑っている。
花が、咲いている。
太陽が、輝いている。
幸せな、絵。
家族の、絵。
リディアは、涙が止まらなくなった。
手紙を、胸に抱きしめた。
「エリス……」
リディアの声が、震える。
「こんな私を……」
リディアは、膝をついた。
「信じてくれている……」
涙が、床に落ちる。
「こんなに……弱い私を……」
リディアは、手紙を見つめた。
エリスの字。
一生懸命書いた、字。
リディアのために。
リディアは、胸が熱くなった。
「私は……」
リディアの声が、震える。
「何を、やっているの……」
リディアは、手紙を抱きしめた。
「エリスは……こんなに……」
リディアは、立ち上がった。
よろめきながら。
「私を、信じてくれている……」
リディアは、窓の外を見た。
薬草園が、見える。
嵐で、花は散ってしまった。
だが、茎は残っている。
根は、残っている。
また、花は咲く。
リディアは、手紙を握りしめた。
「エリスのために……」
リディアの声が、少し強くなる。
「もう一度……」
リディアは、決意の表情を浮かべた。
「立ち上がらなきゃ……」
リディアは、手紙を大切に机の上に置いた。
そして、鏡を見た。
腫れた目。
青白い顔。
弱々しい、自分。
だが。
リディアは、自分に言い聞かせた。
「私は、ヒーローじゃない」
リディアの声が、静かだ。
「でも……」
リディアは、エリスの手紙を見た。
「エリスにとっては、ヒーローなんだ」
リディアの瞳に、光が戻ってくる。
「ならば……」
リディアは、拳を握った。
「立ち上がらなきゃ」
リディアは、深呼吸をした。
「エリスのために」
リディアの声が、力強くなる。
「カイルのために」
リディアは、窓を開けた。
朝の風が、吹き込む。
「そして……」
リディアは、空を見上げた。
「前世の私のために」
リディアの瞳が、決意に満ちている。
「もう一度、戦う」
リディアは、手紙を胸に抱いた。
温かい。
エリスの優しさが、伝わってくる。
「ありがとう、エリス」
リディアの声が、優しい。
「あなたが、私を救ってくれた」
リディアは、涙を拭った。
もう、絶望の涙ではない。
希望の、涙。
感謝の、涙。
窓の外、鳥が鳴いている。
新しい朝が、始まっている。
リディアは、手紙を大切にしまった。
そして、部屋を出た。
もう一度、戦うために。
リディアが部屋を出ると。
廊下に、カイルが立っていた。
壁に、寄りかかって。
リディアを、待っていた。
リディアは、立ち止まった。
「カイル……」
リディアの声が、驚いている。
カイルは、リディアを見た。
隻眼が、リディアを見つめる。
「聞こえていたぞ」
カイルの声が、低く響く。
「お前の、泣き声」
リディアは、息を呑んだ。
カイルは、壁から離れた。
リディアに、近づく。
「昨夜、ずっと聞いていた」
カイルの声が、痛みを帯びている。
「お前が、泣いているのを」
カイルは、リディアの前に立った。
「俺は、何もしてやれなかった」
カイルの声が、自責に満ちている。
「扉を、叩くこともできなかった」
カイルは、拳を握った。
「お前を、抱きしめることもできなかった」
カイルの隻眼が、苦しそうだ。
「俺は……無力だった」
リディアは、首を横に振った。
「いえ……」
リディアの声が、震える。
「あなたが、いてくれただけで……」
リディアは、カイルを見上げた。
「私は、一人じゃなかった」
リディアの瞳が、涙に潤んでいる。
「あなたが、扉の向こうにいてくれた」
リディアの声が、温かい。
「それだけで、十分でした」
カイルは、リディアの肩に手を置いた。
「リディア」
カイルの声が、真剣だ。
リディアは、カイルを見つめた。
カイルの隻眼が、まっすぐリディアを見ている。
「お前が、諦めるなら」
カイルの声が、低く響く。
「俺が、代わりに戦う」
カイルの声が、力強い。
「セレナを、倒す」
カイルの隻眼が、炎のように燃える。
「お前の無念を、晴らす」
カイルは、リディアの両肩を掴んだ。
「だが」
カイルの声が、変わる。
「お前が、立ち上がるなら」
カイルの声が、誓いのように響く。
「俺は、全てを賭けてお前を支える」
カイルの隻眼が、真剣だ。
「財産も」
「地位も」
「命も」
カイルの声が、一つ一つ重い。
「全て、お前のために使う」
カイルは、リディアの目を見た。
「どちらを、選ぶ?」
カイルの声が、静かに問う。
リディアは、カイルを見つめた。
心臓が、高鳴る。
カイルの目。
真剣な、目。
リディアを、信じている目。
リディアは、深呼吸をした。
そして、答えた。
「私……」
リディアの声が、震える。
だが、止まらない。
「まだ、戦えます」
リディアの声が、少しずつ強くなる。
「いえ」
リディアは、カイルをまっすぐ見た。
「戦いたいです」
リディアの瞳が、決意に満ちている。
「セレナを、倒したい」
リディアの声が、力強い。
「被害者たちを、救いたい」
リディアは、拳を握った。
「前世でできなかったことを」
リディアの声が、熱を帯びる。
「今度こそ、成し遂げたい」
リディアは、カイルの手を取った。
「だから……」
リディアの声が、真剣だ。
「力を、貸してください」
カイルの隻眼が、優しく細められた。
そして、小さく笑った。
珍しい、笑顔。
「気に入った」
カイルの声が、温かい。
カイルは、リディアを抱きしめた。
強く。
「お前らしい、答えだ」
カイルの声が、リディアの耳元で響く。
「ならば、俺も全力で戦う」
カイルは、リディアの背中を撫でた。
「お前と、共に」
リディアは、カイルの胸に顔を埋めた。
温かい。
力強い。
安心できる、場所。
「ありがとう、カイル」
リディアの声が、優しい。
カイルは、リディアの髪を撫でた。
「礼を言うのは、俺の方だ」
カイルの声が、静かに響く。
「お前が、俺に希望をくれた」
カイルは、リディアを少し離して見つめた。
「お前が、俺に戦う理由をくれた」
カイルの隻眼が、真剣だ。
「だから、俺はお前のために戦う」
カイルは、リディアの頬に触れた。
「何があっても、お前を守る」
カイルの声が、誓いのように響く。
リディアは、涙を流した。
だが、悲しみの涙ではない。
感謝の、涙。
希望の、涙。
「一緒に、戦いましょう」
リディアの声が、力強い。
カイルは、頷いた。
「ああ」
二人は、しばらく抱き合っていた。
廊下に、朝日が差し込んでいる。
温かい、光。
希望の、光。
二人の影が、一つになっている。
やがて、カイルがリディアを離した。
「無理はするな」
カイルの声が、優しい。
「お前の体は、まだ回復していない」
カイルは、リディアの頬に触れた。
「焦る必要はない」
カイルの声が、静かに響く。
「俺が、ついている」
リディアは、頷いた。
「はい」
リディアの瞳が、涙に潤んでいる。
「でも、もう大丈夫です」
リディアは、カイルの手を握った。
「あなたがいてくれるから」
カイルは、小さく笑った。
「お前も、強くなったな」
カイルの声が、温かい。
リディアは、微笑んだ。
「あなたが、強くしてくれました」
二人は、しばらく見つめ合っていた。
窓から差し込む朝日が、二人を照らす。
希望の、光。
カイルは、リディアの肩に手を置いた。
「ゆっくり、考えればいい」
カイルの声が、優しい。
「どう戦うか」
「どう勝つか」
カイルの隻眼が、真剣だ。
「俺は、お前の決断を待つ」
リディアは、頷いた。
「ありがとうございます」
リディアの声が、温かい。
二人は、並んで廊下を歩き始めた。
ゆっくりと。
窓の外、薬草園が見える。
嵐で散った花たち。
だが、新しい芽が出始めている。
希望は、まだある。
リディアは、それを信じた。
午後。
リディアは、研究棟に戻った。
カイルと別れて、一人で。
机の上に、エリスの手紙がある。
リディアは、手紙を見つめた。
そして、決意した。
リディアは、机の引き出しを開けた。
前世ノートが、そこにある。
昨夜、閉じてしまったノート。
リディアは、ノートを取り出した。
そして、開いた。
ページを、めくる。
自分の筆跡。
前世の知識。
化学式。
薬害事件の構造。
全て、ここにある。
リディアは、ペンを取った。
「証拠が、なくても」
リディアの声が、静かに響く。
「私には、まだ方法がある」
リディアは、ノートに書き始めた。
「セレナの薬の被害者たちを、救えばいい」
リディアの手が、動く。
「彼らを治療すれば」
リディアの目が、輝き始める。
「それ自体が、証拠になる」
リディアは、前世の記憶を辿った。
薬害事件。
依存症患者たち。
彼らを救う方法。
リディアは、書き続けた。
「王宮貴族たちに、無料健康診断を提案する」
リディアの筆が、走る。
「依存症を、発見する」
「データを、集める」
「公開する」
リディアは、計画を練った。
前世の知識を、総動員して。
化学的な診断方法。
依存症の兆候。
治療プロトコル。
全て、ノートに書き込んでいく。
やがて、リディアはペンを置いた。
計画が、完成した。
リディアは、ノートを見つめた。
「これなら……」
リディアの声が、希望に満ちている。
「これなら、戦える」
リディアは、立ち上がった。
そして、カイルを探しに行った。
カイルは、執務室にいた。
書類を、読んでいる。
リディアが、扉をノックした。
「入れ」
カイルの声が、響く。
リディアは、部屋に入った。
ノートを、抱えて。
カイルは、顔を上げた。
「リディア」
カイルの声が、優しい。
リディアは、カイルの机に近づいた。
そして、ノートを開いた。
「カイル、聞いてください」
リディアの声が、真剣だ。
「新しい作戦を、思いつきました」
カイルは、書類を置いた。
そして、リディアに注目する。
リディアは、説明を始めた。
「王宮貴族たちに、無料健康診断を提案します」
リディアの目が、輝いている。
「セレナの秘薬の被害者を、見つけ出します」
リディアは、ノートの図解を見せた。
「依存症の兆候を、データ化します」
リディアの声が、熱を帯びる。
「そして、公開します」
リディアは、カイルを見た。
「これなら、証拠になります」
カイルは、黙ってノートを見ていた。
じっくりと。
リディアの計画を、読んでいる。
沈黙。
リディアは、緊張した。
心臓が、高鳴る。
やがて、カイルが顔を上げた。
「危険だな」
カイルの声が、低い。
リディアは、息を呑んだ。
カイルは、続けた。
「セレナは、必ず妨害する」
カイルの隻眼が、真剣だ。
「お前の命も、狙うだろう」
リディアは、頷いた。
「わかっています」
リディアの声が、決意に満ちている。
「でも、これしか方法がありません」
カイルは、しばらく考えていた。
沈黙。
リディアは、待った。
カイルの決断を。
やがて、カイルが口を開いた。
「お前らしい、戦い方だ」
カイルの声が、小さく笑っている。
リディアは、顔を上げた。
カイルが、微笑んでいる。
「俺が、国王に直談判する」
カイルの声が、力強い。
「無料健康診断の許可を取る」
カイルは、立ち上がった。
「お前は、準備をしろ」
カイルは、リディアの肩に手を置いた。
「診断方法」
「治療薬」
「全て、用意しろ」
カイルの隻眼が、真剣だ。
「俺が、お前を守る」
リディアは、涙が溢れそうになった。
「ありがとうございます」
リディアの声が、震える。
カイルは、リディアの頭を撫でた。
「礼はいらない」
カイルの声が、優しい。
「俺たちは、共に戦う仲間だ」
リディアは、頷いた。
「はい」
リディアの瞳が、希望に満ちている。
リディアは、研究棟に戻った。
そして、準備を始めた。
薬草を集める。
診断道具を準備する。
前世の知識を、総動員する。
リディアの手が、休むことなく動く。
窓の外、夕日が沈んでいく。
オレンジ色の光が、部屋を照らす。
リディアは、手を止めた。
そして、窓の外を見た。
薬草園。
嵐で散った花たち。
だが、新しい芽が出ている。
希望は、まだある。
リディアは、拳を握った。
「今度こそ」
リディアの声が、静かに響く。
「真実を、明らかにする」
リディアの瞳が、決意に満ちている。
「前世でできなかったことを」
リディアは、空を見上げた。
「今度こそ、成し遂げる」
夕日が、リディアを照らす。
希望の、光。
リディアは、再び作業に戻った。
準備は、まだ終わらない。
だが、もう迷いはない。
戦う理由がある。
守るべき人たちがいる。
そして、カイルがいる。
リディアの手が、力強く動く。
新しい戦いが、始まろうとしていた。