王宮。
謁見の間。
豪華なシャンデリアが、天井から吊り下げられている。
壁には、金色の装飾が施されている。
赤い絨毯が、入口から玉座まで続いている。
貴族たちが、両側に並んでいる。
豪華なドレスと礼服を着て、互いに囁き合っている。
玉座には、国王が座っていた。
前回、リディアが見た時よりも、顔色が良い。
だが、まだ痩せている。
その隣には、王太子が立っている。
そして、壇上の近くには、セレナがいた。
金髪が美しく輝き、豪華なドレスを着ている。
謁見の間の扉が、開いた。
侍従が、声を上げた。
「ヴァレンティス侯爵、カイル・ヴァレンティス様、ご入場!」
貴族たちが、扉の方を見た。
カイルが、入ってきた。
銀髪、隻眼、黒い礼服。
威厳のある、姿。
カイルは、堂々と赤い絨毯を歩いた。
そして、その後ろから——。
リディアが、入ってきた。
深い青色のドレスを着て、凛とした表情。
貴族たちが、ざわめいた。
「あれは……リディア・アーシェンフェルトでは?」
「王宮を去った、あの娘か?」
「何故、ここに?」
囁き声が、謁見の間に満ちた。
リディアは、カイルの後ろを歩いた。
胸が、激しく打っている。
だが、リディアは顔に出さなかった。
堂々と、歩く。
リディアは、壇上の近くにいるセレナを見た。
セレナは、冷たい笑みを浮かべている。
その目は、リディアを値踏みしている。
リディアは、視線を逸らさなかった。
そして、さらに前方を見た。
アルヴィンが、王太子の隣に立っている。
アルヴィンは、驚愕の表情だ。
目を見開き、リディアを見つめている。
リディアは、アルヴィンを一瞥した。
そして、無視した。
カイルは、玉座の前に立った。
リディアも、その隣に立った。
カイルは、深く頭を下げた。
「陛下、お目にかかれて光栄です」
国王は、カイルを見た。
「カイル侯爵、よく来た」
国王の声は、以前よりも力強い。
だが、まだ弱々しい。
国王は、続けた。
「辺境の報告を、聞かせてくれ」
カイルは、頷いた。
「はい、陛下」
カイルは、貴族たちを見回した。
そして、宣言した。
「我が領地の医療改革について、報告いたします」
貴族たちが、注目した。
カイルは、リディアの方を向いた。
「薬師長、リディア・アーシェンフェルトが、報告します」
貴族たちが、再びざわめいた。
「薬師長……?」
「あの婚約破棄された娘が?」
「信じられない……」
リディアは、深呼吸をした。
そして、一歩前に出た。
リディアは、国王に頭を下げた。
「陛下、お目にかかれて光栄です」
国王は、リディアを見た。
その目には、興味の色がある。
「リディア・アーシェンフェルトか」
国王の声が、穏やかだ。
「カイル侯爵の薬師長だと?」
「はい、陛下」
リディアは、顔を上げた。
「私は、ヴァレンティス侯爵領で、医療改革を行いました」
リディアの声が、謁見の間に響く。
「その成果を、報告させていただきます」
国王は、頷いた。
「聞かせてくれ」
リディアは、鞄から報告資料を取り出した。
そして、貴族たちを見回した。
セレナが、冷たく笑っている。
アルヴィンが、困惑している。
他の貴族たちは、興味津々だ。
リディアは、報告を始めた。
「まず、新薬の開発についてです」
リディアは、資料を開いた。
「私は、魔力に依存しない、化学合成型の治療薬を開発しました」
貴族たちが、ざわめいた。
「魔力に依存しない?」
「そんなことが可能なのか?」
リディアは、続けた。
「この薬は、慢性疼痛に対して、95%の効果を示しました」
リディアは、グラフを見せた。
「治療実績は、300名。全員、回復しました」
貴族たちが、驚きの声を上げた。
「300名……?」
「全員回復……?」
リディアは、自信を持って言った。
「これにより、ヴァレンティス侯爵領の医療は、大きく改善されました」
国王は、興味深そうに聞いていた。
「素晴らしい成果だ」
だが、その時——。
セレナが、立ち上がった。
「陛下、お待ちください」
セレナの声が、謁見の間に響いた。
セレナは、優雅に前に出た。
そして、リディアを見た。
「リディア、あなたの薬は危険です」
セレナの声が、謁見の間に響く。
リディアは、セレナを見た。
心臓が、激しく打っている。
だが、リディアは冷静を装った。
「危険……ですか?」
「ええ」
セレナは、貴族たちの方を向いた。
「皆様、リディアの薬は、魔力を使っていません」
セレナの声が、懸念に満ちている。
「それは、我々の薬学の基本を無視しています。根拠が、不明確です」
貴族たちが、ざわめいた。
「確かに……魔力を使わない薬など……」
「聞いたことがない……」
セレナは、リディアを見た。
「リディア、あなたの薬の根拠を、説明できますか?」
リディアは、深呼吸をした。
そして、冷静に答えた。
「はい、説明できます」
リディアは、報告資料を開いた。
「私の薬は、薬草の化学成分を抽出し、精製したものです」
リディアは、図解を見せた。
「魔力ではなく、化学反応によって、治療効果を発揮します」
貴族たちが、興味深そうに聞いている。
リディアは、続けた。
「例えば、白い根草には、鎮痛作用のある成分が含まれています。私は、その成分を抽出し、純粋な形で投与しました。その結果、魔力を使わずとも、高い効果を得られました」
リディアは、データを提示した。
「治療前と治療後の比較データです。患者の痛みのレベルが、平均90%減少しました」
貴族たちが、驚きの声を上げた。
「90%……」
「本当に、そんなことが……」
だが、一部の貴族が、批判の声を上げた。
「だが、魔力を使わぬ薬など、邪道ではないか?」
「伝統を無視している」
リディアは、その貴族を見た。
「邪道……でしょうか?」
リディアの声が、静かだが力強い。
「私は、結果を出しました。300名の患者を、救いました」
リディアは、貴族たちを見回した。
「それでも、邪道と言えますか?」
貴族たちは、黙った。
国王が、口を開いた。
「リディア、お前の薬は、本当に安全なのか?」
リディアは、国王を見た。
「はい、陛下。安全です」
リディアは、続けた。
「副作用も、最小限に抑えられています。長期使用しても、依存性はありません」
その時、セレナが、再び立ち上がった。
「リディア、あなたは依存性がないと言いましたね」
セレナの目が、鋭い。
「では、あなたの薬の成分を、ここで公開できますか?」
リディアは、頷いた。
「はい、できます」
リディアは、資料を取り出した。
「私の薬の成分は、白い根草から抽出したアルカロイド、そして——」
リディアは、詳細に説明した。
貴族たちが、真剣に聞いている。
リディアは、説明を終えた。
「以上です。全て、公開可能です」
セレナは、顔色を変えた。
だが、すぐに笑顔を取り戻した。
「そうですか。では、安全なのでしょうね」
リディアは、セレナを見た。
そして、静かに言った。
「では、セレナ様」
リディアの声が、謁見の間に響く。
「あなたの秘薬の成分を、ここで公開できますか?」
貴族たちが、息を呑んだ。
セレナは、顔色を変えた。
「私の秘薬……?」
「はい」
リディアは、セレナの目を見た。
「あなたの美容秘薬です。成分を、公開できますか?」
セレナは、しばらく黙っていた。
そして、冷たく笑った。
「それは、企業秘密です」
リディアは、頷いた。
「企業秘密……ですか」
リディアは、貴族たちを見回した。
「私は、全てを公開できます。ですが、セレナ様は、公開できないそうです」
リディアの声が、静かだが鋭い。
「どちらが、信頼できるでしょうか?」
貴族たちが、ざわめいた。
「確かに……」
「公開できないのは、怪しい……」
セレナは、顔を強張らせた。
「リディア、あなた……」
国王が、手を上げた。
「静粛に」
国王の声が、謁見の間を制する。
国王は、リディアを見た。
「リディア、興味深い報告だ」
国王は、続けた。
「後日、詳細を審議しよう」
セレナは、顔を強張らせた。
そして、国王の方へ進み出た。
「陛下、お待ちください」
セレナの声が、焦りを帯びている。
「彼女は、婚約を破棄された身です」
セレナは、リディアを指差した。
「第三王子殿下が見放した、不出来な元婚約者です」
セレナの声が、謁見の間に響く。
「そのような者の言葉を、信用できません」
貴族たちが、再びざわめいた。
「確かに……婚約破棄された身で……」
「殿下が見放した娘の言葉など……」
リディアは、唇を噛んだ。
心臓が、激しく打っている。
また、前世と同じ。
告発者が、信用されない。
リディアの手が、震えた。
その時。
重い足音が、響いた。
カイルが、立ち上がった。
謁見の間が、静まり返る。
カイルの隻眼が、貴族たちを見渡す。
冷酷な、威圧感。
貴族たちが、息を呑んだ。
カイルは、国王を見た。
「陛下」
カイルの声が、低く響く。
「彼女は、俺の領地で実績を上げた」
カイルは、リディアの方を向いた。
「三百名の患者を、救った」
カイルは、再び国王を見た。
「俺の娘の命も、救った」
カイルの声が、力強い。
「疑うなら、俺を疑え」
謁見の間が、緊張に包まれた。
貴族たちは、沈黙している。
カイル・ヴァレンティス侯爵。
冷酷な侯爵として恐れられる男。
その男が、リディアを庇っている。
セレナは、顔色を変えた。
「侯爵様……しかし……」
カイルは、セレナを見た。
冷たい、眼差し。
セレナは、言葉を失った。
国王が、沈黙を破った。
「静粛に」
国王の声が、謁見の間を制する。
国王は、リディアを見た。
そして、カイルを見た。
「カイル侯爵の言葉は、重い」
国王は、考え込むように頷いた。
「だが、この場で即断はできぬ」
国王は、手を上げた。
「後日、詳細を審議しよう」
国王の声が、厳かに響く。
「リディア、お前の論文を提出せよ」
「そして、セレナ」
国王は、セレナを見た。
「お前の秘薬についても、調査する」
セレナは、顔を強張らせた。
だが、頭を下げた。
「……はい、陛下」
国王は、玉座から立ち上がった。
「本日の謁見は、これまでとする」
国王の宣言が、謁見の間に響く。
貴族たちが、ざわめきながら退出を始める。
リディアは、その場に立ち尽くしていた。
心臓が、まだ激しく打っている。
カイルが、リディアの元へ歩いてきた。
そして、小さく呟いた。
「よくやった」
リディアは、カイルを見上げた。
涙が、滲んでいた。
「……ありがとうございます」
カイルは、無言で頷いた。
そして、リディアの肩に手を置いた。
温かい、手。
リディアは、震えが止まった。
謁見の間の出口で、セレナが振り返った。
冷たい視線が、リディアを捉える。
リディアは、その視線を受け止めた。
もう、逃げない。
セレナは、冷笑して去った。
リディアは、カイルと共に謁見の間を出た。
廊下に出ると、リディアは深く息を吐いた。
「まだ……終わっていません」
リディアの声が、小さく震える。
カイルは、リディアを見た。
「ああ。だが、お前は一歩を踏み出した」
カイルの声が、静かに響く。
「俺が、お前を守る」
リディアは、頷いた。
窓の外、夕日が沈んでいく。
謁見の間の緊張が、まだ胸に残っている。
だが、リディアの心には、小さな希望の灯火が灯っていた。
戦いは、まだ続く。
だが、もう一人ではない。
謁見の間。
豪華なシャンデリアが、天井から吊り下げられている。
壁には、金色の装飾が施されている。
赤い絨毯が、入口から玉座まで続いている。
貴族たちが、両側に並んでいる。
豪華なドレスと礼服を着て、互いに囁き合っている。
玉座には、国王が座っていた。
前回、リディアが見た時よりも、顔色が良い。
だが、まだ痩せている。
その隣には、王太子が立っている。
そして、壇上の近くには、セレナがいた。
金髪が美しく輝き、豪華なドレスを着ている。
謁見の間の扉が、開いた。
侍従が、声を上げた。
「ヴァレンティス侯爵、カイル・ヴァレンティス様、ご入場!」
貴族たちが、扉の方を見た。
カイルが、入ってきた。
銀髪、隻眼、黒い礼服。
威厳のある、姿。
カイルは、堂々と赤い絨毯を歩いた。
そして、その後ろから——。
リディアが、入ってきた。
深い青色のドレスを着て、凛とした表情。
貴族たちが、ざわめいた。
「あれは……リディア・アーシェンフェルトでは?」
「王宮を去った、あの娘か?」
「何故、ここに?」
囁き声が、謁見の間に満ちた。
リディアは、カイルの後ろを歩いた。
胸が、激しく打っている。
だが、リディアは顔に出さなかった。
堂々と、歩く。
リディアは、壇上の近くにいるセレナを見た。
セレナは、冷たい笑みを浮かべている。
その目は、リディアを値踏みしている。
リディアは、視線を逸らさなかった。
そして、さらに前方を見た。
アルヴィンが、王太子の隣に立っている。
アルヴィンは、驚愕の表情だ。
目を見開き、リディアを見つめている。
リディアは、アルヴィンを一瞥した。
そして、無視した。
カイルは、玉座の前に立った。
リディアも、その隣に立った。
カイルは、深く頭を下げた。
「陛下、お目にかかれて光栄です」
国王は、カイルを見た。
「カイル侯爵、よく来た」
国王の声は、以前よりも力強い。
だが、まだ弱々しい。
国王は、続けた。
「辺境の報告を、聞かせてくれ」
カイルは、頷いた。
「はい、陛下」
カイルは、貴族たちを見回した。
そして、宣言した。
「我が領地の医療改革について、報告いたします」
貴族たちが、注目した。
カイルは、リディアの方を向いた。
「薬師長、リディア・アーシェンフェルトが、報告します」
貴族たちが、再びざわめいた。
「薬師長……?」
「あの婚約破棄された娘が?」
「信じられない……」
リディアは、深呼吸をした。
そして、一歩前に出た。
リディアは、国王に頭を下げた。
「陛下、お目にかかれて光栄です」
国王は、リディアを見た。
その目には、興味の色がある。
「リディア・アーシェンフェルトか」
国王の声が、穏やかだ。
「カイル侯爵の薬師長だと?」
「はい、陛下」
リディアは、顔を上げた。
「私は、ヴァレンティス侯爵領で、医療改革を行いました」
リディアの声が、謁見の間に響く。
「その成果を、報告させていただきます」
国王は、頷いた。
「聞かせてくれ」
リディアは、鞄から報告資料を取り出した。
そして、貴族たちを見回した。
セレナが、冷たく笑っている。
アルヴィンが、困惑している。
他の貴族たちは、興味津々だ。
リディアは、報告を始めた。
「まず、新薬の開発についてです」
リディアは、資料を開いた。
「私は、魔力に依存しない、化学合成型の治療薬を開発しました」
貴族たちが、ざわめいた。
「魔力に依存しない?」
「そんなことが可能なのか?」
リディアは、続けた。
「この薬は、慢性疼痛に対して、95%の効果を示しました」
リディアは、グラフを見せた。
「治療実績は、300名。全員、回復しました」
貴族たちが、驚きの声を上げた。
「300名……?」
「全員回復……?」
リディアは、自信を持って言った。
「これにより、ヴァレンティス侯爵領の医療は、大きく改善されました」
国王は、興味深そうに聞いていた。
「素晴らしい成果だ」
だが、その時——。
セレナが、立ち上がった。
「陛下、お待ちください」
セレナの声が、謁見の間に響いた。
セレナは、優雅に前に出た。
そして、リディアを見た。
「リディア、あなたの薬は危険です」
セレナの声が、謁見の間に響く。
リディアは、セレナを見た。
心臓が、激しく打っている。
だが、リディアは冷静を装った。
「危険……ですか?」
「ええ」
セレナは、貴族たちの方を向いた。
「皆様、リディアの薬は、魔力を使っていません」
セレナの声が、懸念に満ちている。
「それは、我々の薬学の基本を無視しています。根拠が、不明確です」
貴族たちが、ざわめいた。
「確かに……魔力を使わない薬など……」
「聞いたことがない……」
セレナは、リディアを見た。
「リディア、あなたの薬の根拠を、説明できますか?」
リディアは、深呼吸をした。
そして、冷静に答えた。
「はい、説明できます」
リディアは、報告資料を開いた。
「私の薬は、薬草の化学成分を抽出し、精製したものです」
リディアは、図解を見せた。
「魔力ではなく、化学反応によって、治療効果を発揮します」
貴族たちが、興味深そうに聞いている。
リディアは、続けた。
「例えば、白い根草には、鎮痛作用のある成分が含まれています。私は、その成分を抽出し、純粋な形で投与しました。その結果、魔力を使わずとも、高い効果を得られました」
リディアは、データを提示した。
「治療前と治療後の比較データです。患者の痛みのレベルが、平均90%減少しました」
貴族たちが、驚きの声を上げた。
「90%……」
「本当に、そんなことが……」
だが、一部の貴族が、批判の声を上げた。
「だが、魔力を使わぬ薬など、邪道ではないか?」
「伝統を無視している」
リディアは、その貴族を見た。
「邪道……でしょうか?」
リディアの声が、静かだが力強い。
「私は、結果を出しました。300名の患者を、救いました」
リディアは、貴族たちを見回した。
「それでも、邪道と言えますか?」
貴族たちは、黙った。
国王が、口を開いた。
「リディア、お前の薬は、本当に安全なのか?」
リディアは、国王を見た。
「はい、陛下。安全です」
リディアは、続けた。
「副作用も、最小限に抑えられています。長期使用しても、依存性はありません」
その時、セレナが、再び立ち上がった。
「リディア、あなたは依存性がないと言いましたね」
セレナの目が、鋭い。
「では、あなたの薬の成分を、ここで公開できますか?」
リディアは、頷いた。
「はい、できます」
リディアは、資料を取り出した。
「私の薬の成分は、白い根草から抽出したアルカロイド、そして——」
リディアは、詳細に説明した。
貴族たちが、真剣に聞いている。
リディアは、説明を終えた。
「以上です。全て、公開可能です」
セレナは、顔色を変えた。
だが、すぐに笑顔を取り戻した。
「そうですか。では、安全なのでしょうね」
リディアは、セレナを見た。
そして、静かに言った。
「では、セレナ様」
リディアの声が、謁見の間に響く。
「あなたの秘薬の成分を、ここで公開できますか?」
貴族たちが、息を呑んだ。
セレナは、顔色を変えた。
「私の秘薬……?」
「はい」
リディアは、セレナの目を見た。
「あなたの美容秘薬です。成分を、公開できますか?」
セレナは、しばらく黙っていた。
そして、冷たく笑った。
「それは、企業秘密です」
リディアは、頷いた。
「企業秘密……ですか」
リディアは、貴族たちを見回した。
「私は、全てを公開できます。ですが、セレナ様は、公開できないそうです」
リディアの声が、静かだが鋭い。
「どちらが、信頼できるでしょうか?」
貴族たちが、ざわめいた。
「確かに……」
「公開できないのは、怪しい……」
セレナは、顔を強張らせた。
「リディア、あなた……」
国王が、手を上げた。
「静粛に」
国王の声が、謁見の間を制する。
国王は、リディアを見た。
「リディア、興味深い報告だ」
国王は、続けた。
「後日、詳細を審議しよう」
セレナは、顔を強張らせた。
そして、国王の方へ進み出た。
「陛下、お待ちください」
セレナの声が、焦りを帯びている。
「彼女は、婚約を破棄された身です」
セレナは、リディアを指差した。
「第三王子殿下が見放した、不出来な元婚約者です」
セレナの声が、謁見の間に響く。
「そのような者の言葉を、信用できません」
貴族たちが、再びざわめいた。
「確かに……婚約破棄された身で……」
「殿下が見放した娘の言葉など……」
リディアは、唇を噛んだ。
心臓が、激しく打っている。
また、前世と同じ。
告発者が、信用されない。
リディアの手が、震えた。
その時。
重い足音が、響いた。
カイルが、立ち上がった。
謁見の間が、静まり返る。
カイルの隻眼が、貴族たちを見渡す。
冷酷な、威圧感。
貴族たちが、息を呑んだ。
カイルは、国王を見た。
「陛下」
カイルの声が、低く響く。
「彼女は、俺の領地で実績を上げた」
カイルは、リディアの方を向いた。
「三百名の患者を、救った」
カイルは、再び国王を見た。
「俺の娘の命も、救った」
カイルの声が、力強い。
「疑うなら、俺を疑え」
謁見の間が、緊張に包まれた。
貴族たちは、沈黙している。
カイル・ヴァレンティス侯爵。
冷酷な侯爵として恐れられる男。
その男が、リディアを庇っている。
セレナは、顔色を変えた。
「侯爵様……しかし……」
カイルは、セレナを見た。
冷たい、眼差し。
セレナは、言葉を失った。
国王が、沈黙を破った。
「静粛に」
国王の声が、謁見の間を制する。
国王は、リディアを見た。
そして、カイルを見た。
「カイル侯爵の言葉は、重い」
国王は、考え込むように頷いた。
「だが、この場で即断はできぬ」
国王は、手を上げた。
「後日、詳細を審議しよう」
国王の声が、厳かに響く。
「リディア、お前の論文を提出せよ」
「そして、セレナ」
国王は、セレナを見た。
「お前の秘薬についても、調査する」
セレナは、顔を強張らせた。
だが、頭を下げた。
「……はい、陛下」
国王は、玉座から立ち上がった。
「本日の謁見は、これまでとする」
国王の宣言が、謁見の間に響く。
貴族たちが、ざわめきながら退出を始める。
リディアは、その場に立ち尽くしていた。
心臓が、まだ激しく打っている。
カイルが、リディアの元へ歩いてきた。
そして、小さく呟いた。
「よくやった」
リディアは、カイルを見上げた。
涙が、滲んでいた。
「……ありがとうございます」
カイルは、無言で頷いた。
そして、リディアの肩に手を置いた。
温かい、手。
リディアは、震えが止まった。
謁見の間の出口で、セレナが振り返った。
冷たい視線が、リディアを捉える。
リディアは、その視線を受け止めた。
もう、逃げない。
セレナは、冷笑して去った。
リディアは、カイルと共に謁見の間を出た。
廊下に出ると、リディアは深く息を吐いた。
「まだ……終わっていません」
リディアの声が、小さく震える。
カイルは、リディアを見た。
「ああ。だが、お前は一歩を踏み出した」
カイルの声が、静かに響く。
「俺が、お前を守る」
リディアは、頷いた。
窓の外、夕日が沈んでいく。
謁見の間の緊張が、まだ胸に残っている。
だが、リディアの心には、小さな希望の灯火が灯っていた。
戦いは、まだ続く。
だが、もう一人ではない。


