婚約破棄された氷の王女、前世で結婚の約束をした幼馴染と再会する

「エルフリーデ゠メルリス・バーデン第三王女との婚約は、今日この場を以て破棄させてもらう!お前のような冷たい心の持ち主ではなく、ひだまりのように温かく光り輝く聖女ココレーヌこそが我がアルベール公国の妃にふさわしい!!」



 婚約者から急に呼び付けられてわざわざ相手の国まで赴いた結果がこれとは。
 後ろでアルベール公が真っ青になって首を横にぶんぶん振っている。婚約破棄は恐らく殿下の独断なのだろう。



「イオル殿下のお気持ちはわかりましたが、我々の婚約は政治的な理由で定められたものです。アルベール公はどのようにお考えなのでしょうか?」

「今そのような話はしていない!やはりその氷のように冷たい心では、人を愛する気持ちは理解できぬのだろう。我が妃が務まるとは到底思えぬ!そうですよね、父上!」



 その父上の顔色は真っ青を通り越して降り積もった雪のように真っ白になっているが、気付かないままイオル殿下は自信満々に持論を述べている。大国バーデンと縁づくために苦労して縁談を整えたアルベール公にはお気の毒だが、私にはどうすることもできないし、どうにかする気もない。


◇◇◇



 バーデン王国第三王女の私ことエルフリーデは、アルベール公国の公太子イオル殿下の婚約者で、近く嫁ぐ予定だった。
 私にとってこの婚約は可もなく不可なく、そもそも回避不可能なものだったので、粛々と受け入れていた。殿下のことは、顔は整っているけど勢いだけで生きているやんちゃな少年だとしか思っておらず、結婚したら公国のために彼の尻拭いをして回って一生を終えるのだろうと思っていた。そこに嘆きや悲しみもなければ、状況を打破するために動こうとも思わない。

 こういうところが冷たく氷のようだと言うのならその通りなのだろう。だって、どうしても心が動かないのだから仕方ない。物心つく頃にはこの性格だったので、今更どうしようもないし婚約者のために変わろうという気持ちも湧いてこない。



「婚約の破棄は、私個人としては特に異存はありません。どうぞ聖女様とお幸せに。後のことは我が父バーデン国王とアルベール公で話し合って決めてくださいませ。それでは失礼いたします」

「待て、エルフリーデ!お前の罪をこの場で詳らかにしてやる!」



 イオル殿下の合図で近衛兵たちが私を取り囲む。恐る恐るといった様子なので、公太子の命で仕方なく行動しているのだろう。



「お前は公国が誇る当代随一の聖女ココレーヌに「聖女にふさわしく無い」だの「あなたのような田舎者と同じ城で生活するなんて御免だ」だの、酷い言葉を投げたそうだな!俺を愛してなどいないくせに公妃の地位には執着するとはなんと醜い女なんだ……!」

「いえ、そのような発言はしていません。第一私は聖女様にお会いしたこともなければ顔も見たことがありません。そもそも私たちの婚約は政略的なものなので、愛情の有無は関係ありません」

「しらばっくれるな!俺の寵愛を受けたココが妬ましかったのだと素直に認めたらどうなのだ。そのココも三日前から行方不明……大方お前がどこかに攫って閉じ込めたのだろう!」



 公国が誇る不世出の聖女が行方不明とは、一大事じゃなかろうか。こんなところで私に罪を着せている場合じゃなさそうだけど、イオル殿下は勝ち誇ったような顔でこちらを見るばかりだ。



「私には本当に心当たりがありません。こうして的外れな断罪を行っている暇があるのなら、聖女様の捜索を急ぐべきではないのでしょうか」

「ふん、あくまでシラを切るつもりだな。公国中から敬われ愛されているココを害するなど我が国の民ではあり得ぬ!異国人のお前が最も怪しいではないか!」

「つまり、大して調べもせず思い込みだけで私を呼びつけ、今もってなお聖女様を捜索していないということですね」

「ここに犯人がいるのに捜索の必要などない!お前を投獄して尋問すれば全て済む話だからな!!」



 傍らで真っ白になっていたアルベール公がイオル殿下の一方的な発言にとうとう倒れかけたが、公妃と護衛騎士に支えられなんとか持ち直した。公にとっては倒れて現実逃避出来た方が幸せだったかもしれない。



「イオル、どういうことですか?聖女ココレーヌの居場所はわかっているから解決のためにエルフリーデ殿下を呼ぶと言い張るので許可を出しましたけど、それは貴方の思い込みだというの?」

「母上!そんなつもりではなく、僕は」

「お黙りなさい!取り返しのつかないことになる前に一刻も早く捜索隊を出さなくてはなりません。騎士団長をここに!」



 公妃殿下の叱責で青褪めたイオル殿下は、ようやく事の重大さに気付いたようだ。

 私を犯人と思い込み勢いで断罪するより前に、愛しい相手を一刻も早く見つけ出せるよう捜索隊を出すべきだったと言わざるを得ない。神の御力で万病を直し全ての傷を癒す奇跡を起こす聖女の存在はとても希少なのだ。攫われる心当たりなんてごまんとあるだろう。



「申し訳ないのだけど、嫌疑が晴れるまではエルフリーデの帰国は認められないの。もちろん貴女は無実だと信じているわ。それでも聖女様がお戻りになるまでは、こちらに留まってくれるかしら」

「承知しております、公妃殿下」



 後ろに控えている私の護衛騎士は抗議の声を上げようとしたけど、そっと押し留める。聖女様さえ見つかれば解放されるのだ。