完璧王子の幼馴染は、なぜか私から離れたがらない。

「ひーなっ! 一緒帰ろ。」

不意に後ろから名前を呼ばれて、心臓が一瞬で跳ねた。
(ドキッ…まただ。今日も、ちゃんと好きが止まらない。)

「う、うん。帰ろう。」

並んで歩き出すと、風が少し冷たくて、その分だけ蒼真の横顔が近くに感じる。
私、あの日からずっとこんな感じ。
ふとした瞬間に名前を呼ばれるだけで胸がぎゅっとなる。

…ていうかさ。
今の私たちって、どーいう関係なんだろ。

友達?
幼なじみ?
それとも…それより上?

付き合ってないなら、返事とかちゃんとしないと…ずっと曖昧なままじゃ、無理だよ。

「ね、ねぇ蒼真。私たちってさ…付き合ってないんだよね?」

聞いた途端、蒼真は歩くスピードを少しだけ落とした。

「俺は付き合ってるつもりだけど? でも、ほんとは付き合ってない…笑」

その“笑”が苦い。
私の胸もいっしょに痛くなる。

「そ、そうだよね…」

変な空気。
なんでこんなこと聞いたんだろ、私。

「なになに。」
蒼真が少し前かがみになって、私の顔を覗き込む。
「俺のこと、好きになっちゃった?」

え。
え、なんでそんな直球!?
やめて心臓死ぬ!!!

頭の中が一瞬真っ白になって、気づいたら口が勝手に動いてた。

「は? そんなことないしっ。」

──言った瞬間、世界が止まった。

あ、間違えた。
違う。違うのに。
ほんとは“好き”って言いたかったのに…!!

「そーだよね。」

その小さな声。
たったそれだけなのに、蒼真の表情がほんの少しだけ曇る。

胸がギュッと締めつけられる。
私はつい下を向いた。

(違う。私は好きなの。
言えなかっただけなの。
なんで、どうして、素直に言えないんだろ…)

歩幅が合わなくなりそうで必死に合わせて歩く。
横を見る勇気はない。
けど、指先だけが蒼真の手を求めて震えてる。

ほんとは、隣にいてほしいのに。
ほんとは、ずっと気づいてほしいのに。

言えなかった「好き」が、喉の奥につかえたまま消えなかった。