完璧王子の幼馴染は、なぜか私から離れたがらない。

亜美に背中を押してもらって、胸の奥に小さな勇気がぽっと灯った。

(よし……今日、言う。今日こそ言うんだ。)

家に帰ってもそわそわが止まらない。
鏡の前で深呼吸を何回もした。手は冷たいのに、心臓はずっと熱くてうるさい。

そして、玄関の前で足が止まったけど、もう逃げたくなかった。

ーピーンポーン。

数秒間、息が詰まる。
やがて扉が開いて、蒼真がのんびりした声で迎えてくれた。

「蒼真っ!あの、話したいことがあるんだけどっ!」

「んー?話したいことって? まあ、とりま家あがりなー。」

いつも通りの自然体な声が、逆に胸に刺さる。
こんな“いつも”が壊れたらどうしよう…って何度も思ったけど、それでも言わなきゃ。

「ありがと……」

部屋にあがると、見慣れた空間に安心しつつも緊張は増していく。
私の好きなお菓子がテーブルに並んでいて、思わずふっと笑っちゃった。

「ほい。ひなの好きなやつ。」

「……ありがと。」

二人で向かい合って、どうでもいい話をして、笑って。
そのいつもの時間が、今日は妙にゆっくり流れる。

(やっぱり……いざとなると恥ずかしい……緊張する……)

その時だった。

「てか、話したいことって何?」

きた。
きたきたきたっ……!!!

手が震えて、喉がきゅっとつまる。
でも逃げたくない。
ここで言わなきゃ、ずっと後悔する。

(言うんだ、私。)

「そ、蒼真……あのね……」

深呼吸。

「私、蒼真のことが……好きです。
私と……付き合ってほしいです。」

一瞬、空気が止まった。

「え……。」

蒼真の目がわずかに大きくなる。
私は勇気を振り絞って、胸に溜めてた全部の気持ちをこぼしていく。

「ちっちゃいころ、泣き虫だった私を守ってくれて……
いつも前に立ってくれる蒼真が、私のヒーローみたいな存在だった。

私ね、蒼真みたいになりたいって、ずっと思ってたの。
強くて、優しくて、自分の意志をちゃんと持ってる人になりたかった。

蒼真のおかげで、今の私がいるんだよ。

ほんとに感謝してる。
こないだまでは幼なじみって思ってたけど……
最近、蒼真が距離つめてきて……
あぁ、好きなんだって気づいた。

いや……本当は、ずっと前から好きだったのかもしれない。
この関係が壊れるのが怖くて、気持ちにウソついてただけで。

だから……
ほんとに、好きです。
付き合ってください。」

言い終わった途端、手が震えてることに気づいた。
涙がにじみそうで必死に堪える。

蒼真はしばらく黙って、私をじっと見つめた。
その視線が優しすぎて、逃げたくなるくらい苦しい。

「……え、ほんとに? 俺でいいの?」

その声は、信じられないみたいに震えていた。

私はゆっくり笑った。

「もちろんおふこーす。
とゆーか……蒼真がいいの。」

その瞬間、蒼真の頬がほんのり赤く染まった。

「……ふふ。
……うれしい。
ありがとう、ひな。」

次の瞬間、蒼真は私の頭にそっと手を置いて、撫でてくれた。
ちょっと照れてる優しい手つき。
その触れ方で、胸がじんわり熱くなる。

「これから……よろしくな。」

「うん……よろしく。」

その言葉が、ずっとほしかった。


こうして私たちは、幼なじみから恋人になった。
どんな未来が待っているのかなんてわからないけど……
どんな困難も、きっと二人なら乗り越えられる。

そう、強く思えた。