ドアを開けたら異世界でした~チートも使命もないアラサー女子は冷血鬼教師に拾われました。~



 目が覚めると、見覚えのない天井があった。
 慌てて起き上がり、辺りを見渡す。……やっぱり、知らない部屋。
 モダンな北欧系インテリアの部屋に、テーブルの上には私のリュック。
 窓からは柔らかな日差しが差し込み、鳥のさえずりが心地いい。
 外の景色をのぞくと――そこには、日本ではない緑が多めの街並みが広がっていた。

………………。
………あっ?

 ここ、エルヴィスさんの家だよね? てことは――寝落ちした!?
 いや、ちょっと待って。
 と言うことは、つまり昨日の出来事は夢じゃなくて

 リ・ア・ル!?

「オーマイガ〜!!!」

 思わず頭を抱えて絶叫する。

 本当は昨日の時点で薄々気づいてた。けど、夢だって思い込みたかったんだ。
 異世界転生なんてありえない。
 頑なな現実逃避――
 元中二病でも社会を知ったアラサーにもなれば、二次元と現実の境界線は引けているつもりだった。いくら強く願っても、お百度参りしても、ファンタジーは所詮絵空事。
 なのになのに
 今さら何この展開!? 遅いよ!!
 そりゃぁ現オタクだから“やったぜ!!”という気持ちが多少あっても、これからの不安の方が大きかった。
 

「穂香、どうした?」

 バァン! と勢いよくドアが開き、エルヴィスさんが入ってきた。
 私の絶叫がただ事じゃないと思ったらしい。
 顔を見た瞬間、なんでだろう? 安心して少し我に返る。

 これはもう現実として、受け入れるしかないんだよね? 
 
「す、すみません。寝ぼけてました」
「そうか。ここはお前の部屋になる。昨日、リビングのソファで寝ていたお前をクレアが運んだそうだ。後で礼を言うんだぞ」
「もちろんです」

 お互い、ちょっと勘違いしてるけど……まぁ、助かった。
(クレアさん、力持ちだな……)
 心の中でツッコみを入れる。




「旦那様、穂香さん、おはようございます」
「クレア、おはよう」
「おはようございます。昨日は運んでいただき、ありがとうございました」
「いえいえ。魔法でお運びしましたので、大丈夫です」

 ――力持ちではなく、魔法でしたか。納得。

 リビングに行くと、クレアさんが朝食を準備していた。
 漂う香りがなんだか懐かしくて、お腹が一気に鳴る。
 テーブルの上には……焼き魚、味噌汁、白いご飯っぽいもの。

「え、和食!? ファンタジー世界に和食!?」

 戸惑っていると

 グ〜〜……。

 私とエルヴィスさん、まさかのハーモニー。
 つい顔を見合わせハニカムと、クレアさんの表情がピシッと引き締まった。

「旦那様、また調べ物に夢中になって夕食を抜かれたのですね?」

 きつめの一言に、エルヴィスさんはしゅんと肩を落とす。

「それは……歴代のメシアについて調べていたら、つい……」

 ――え、私のために?

「それなら仕方ありませんね」

 クレアさんの表情が一転して穏やかになる。

「すみません、もしかして……」
「気にしないでください。旦那様は夢中になると、すぐ食事も睡眠も忘れてしまうんです。そのせいで人相が悪くなったのですよ。おまけに仕事が恋人だから、女の影はこの十数年ゼロ。幼い頃は絶世の美少年で性格も爽やかだったので、モテていたのにもったいない」
「う、うるさい。余計なことを言うな」

 ……貴重な情報、ゲットしました。

 怒ってるのに全然怖くないエルヴィスさん。
 むしろちょっと可愛い。

 どうやらクレアさんは、エルヴィスさんの幼少期から仕えているらしい。
 つまり彼は名家の出身……三男坊とか?
 あとで子どもの頃の写真、絶対見せてもらおう。

「クレアさん、この食事って普通なんですか?」
「はい。旦那様の好みで、朝はいつもこうなんです」
「私の国と似てるので、ありがたいです」

そう言って、自分の席だと思うとこに着く。そこだけ食器がお客用に感じた。

 炊きたてご飯の香りに、理性が崩壊寸前。

「そうなのか。それは良かった。では、食べよう」
「ですね」

 二人も席につく。