ドアを開けたら異世界でした~チートも使命もないアラサー女子は冷血鬼教師に拾われました。~


「旦那様、おかえりなさい。あら、そちらの女性?」
「ただいま。異世界人だ。遺跡で拾ってきた」

 ぷっ。

 言葉のチョイスがツボすぎて、思わず吹き出しそうになる。怒るべきなんだろうけど、もうツッコまずにはいられない。

 ……私は捨て猫か?

 エルヴィスさんにジロッと睨まれたけれど、恰幅のいい優しそうな水色髪のおばさんはクスクスと笑っている。

「珍しいこともあるのですね。私は旦那様の使用人のクレアと申します。分からないことがあれば何でも聞いてくださいね」
「穂香です。よろしくお願いします」
「クレア、穂香の部屋を用意してくれ」
「はい、分かりました」

 ……え、ちょっと待って。私、ここに住むの?

 気づいたらそんな流れになっていて、思わず目をぱちぱちさせる。
 まさかエルヴィスさんがここまで面倒見がいいとは思わなかった。

「いてもいいんですか?」
「ああ。異世界のことは興味深いことばかりだからな。すべてを話し終えるまで、ここにいて構わない」

 告白にも聞こえるセリフに、一瞬ドキッ。
 でもその瞳はは、純粋に“研究者のそれ”だった。

 さっき日本の話をざっくり話ただけでも、目を輝かせて少年のように夢中になって聞いていたもんね。これからいろいろ深く聞かれ、それにどこまで答えられるか心配ではある。一般人の私の知識なんて、すべて中途半端だから。

「ありがとうございます」
「気にするな。クレアが戻るまで座って待っていろ。俺は学園へ戻る。明日街を案内してやるから、今日は家でおとなしくしているんだぞ?」
「はい。いってらっしゃい」

 やっぱりこの人、誤解されやすいタイプだ。
 言葉はきついけれど、実際は優しい。

 ――なんて言ったら、また怒られそう。

 そう思いながらエルヴィスさんを見送り、近くのソファに腰を下ろす。
 ふかふかで、座り心地が最高だ。
 服装はアラビア風なのに、部屋のインテリアは北欧モダン系で統一されている。
 きっちり整理整頓されていて、掃除も行き届いてる。
 クレアさんは優秀な使用人なんだろうな?。

 ……あれ? 突然眠気が襲ってきた。
 今の今までまったく眠くなかったのに、いきなりなんで?
 夢だから?
 と言うことは、楽しい自覚がある夢もこれで終わりか。もうちょっとこの設定を楽しみたかったな。
 ……乗り過ごしてなん往復した挙げ句、車掌さんに起こされたら恥ずかしいか。

 ――起きても忘れたくないな。