「旦那様、おかえりなさい。あら、そちらの女性?」
「ただいま。異世界人だ。遺跡で拾ってきた」
ぷっ。
言葉のチョイスがツボすぎて、思わず吹き出しそうになる。怒るべきなんだろうけど、もうツッコまずにはいられない。
……私は捨て猫か?
エルヴィスさんにジロッと睨まれたけれど、恰幅のいい優しそうな水色髪のおばさんはクスクスと笑っている。
「珍しいこともあるのですね。私は旦那様の使用人のクレアと申します。分からないことがあれば何でも聞いてくださいね」
「穂香です。よろしくお願いします」
「クレア、穂香の部屋を用意してくれ」
「はい、分かりました」
……え、ちょっと待って。私、ここに住むの?
気づいたらそんな流れになっていて、思わず目をぱちぱちさせる。
まさかエルヴィスさんがここまで面倒見がいいとは思わなかった。
「いてもいいんですか?」
「ああ。異世界のことは興味深いことばかりだからな。すべてを話し終えるまで、ここにいて構わない」
告白にも聞こえるセリフに、一瞬ドキッ。
でもその瞳はは、純粋に“研究者のそれ”だった。
さっき日本の話をざっくり話ただけでも、目を輝かせて少年のように夢中になって聞いていたもんね。これからいろいろ深く聞かれ、それにどこまで答えられるか心配ではある。一般人の私の知識なんて、すべて中途半端だから。
「ありがとうございます」
「気にするな。クレアが戻るまで座って待っていろ。俺は学園へ戻る。明日街を案内してやるから、今日は家でおとなしくしているんだぞ?」
「はい。いってらっしゃい」
やっぱりこの人、誤解されやすいタイプだ。
言葉はきついけれど、実際は優しい。
――なんて言ったら、また怒られそう。
そう思いながらエルヴィスさんを見送り、近くのソファに腰を下ろす。
ふかふかで、座り心地が最高だ。
服装はアラビア風なのに、部屋のインテリアは北欧モダン系で統一されている。
きっちり整理整頓されていて、掃除も行き届いてる。
クレアさんは優秀な使用人なんだろうな?。
……あれ? 突然眠気が襲ってきた。
今の今までまったく眠くなかったのに、いきなりなんで?
夢だから?
と言うことは、楽しい自覚がある夢もこれで終わりか。もうちょっとこの設定を楽しみたかったな。
……乗り過ごしてなん往復した挙げ句、車掌さんに起こされたら恥ずかしいか。
――起きても忘れたくないな。
