ドアを開けたら異世界でした~チートも使命もないアラサー女子は冷血鬼教師に拾われました。~


 ――うん、これは夢。
 電車で運よく座れたし、きっと爆睡→異世界妄想ルートに突入。
 夢だったら、そのうち覚めるでしょ。だったらこれ以上深く考えないで話に合わせて、楽しんじゃおう!!

「……まぁ、ラークに戻れば何かわかるかもしれん」
「えっ、調べてくれるの!?」

 え、意外。てっきり置いてかれると思ってた。やっぱり夢補正?

「ちょうど遺跡の調査が終わったところだったからな。礼は――そうだな、異世界の話でも聞かせてくれればいい」
「ありがとうございます! なんでも話します!」

 おお、展開がスムーズすぎる。夢、万歳。

「交渉成立だな。俺はエルヴィス。考古学者だ」
「私は穂香。元の世界では事務職してました。よろしくお願いします」

 定番の自己紹介と握手。
 最初はひんやりしていた手が、少しずつ温かくなっていく。
 ……ツンデレ属性ですか?

「ああ。あっちに車がある。二時間もあれば着く」
「え、車? 魔法の世界じゃないの!?」
「馬鹿にしてるのか? エネルギー源は魔力だ。そっちの世界では違うのか?」

 少し眉間にシワを寄せて、声が低くなる。
 うわ、なんか怒らせた? 思わず一歩下がる。

「いやいや、バカにしていません。ただちょっと意外で……」

 危ない危ない。異世界初日で地雷踏むところだった。

「私の世界では、魔法は空想の中の存在。車は、人間が作ったエネルギーで動いています」

 よし、ナイス説明。オタク知識、発揮完了。

「ほう、それは興味深いな。こちらでは誰もが魔力を持っているため、動力を研究する者はほとんどいない」
「まぁ……そりゃそうなるよね」

 魔法がエネルギー源として使えるなら、電力もガソリンも不要。
 つまり、科学と魔法の融合世界――ってやつ?
 どんな技術なんだろう。ちょっとワクワクしてきた。