会社から帰宅し、いつものようにドアを開けた
――その瞬間、目の前に広がったのは青空と、どこか“遺跡っぽい場所”だった。
……は? なんで? 私の玄関、どこいった?
あまりにも意味不明な状況に、なかったことにしてドアを閉めようとした。
けれど、ドアノブの感触がない。
まさかと思い振り返れば、そこには無情にも岩の壁。
――え、なにこの展開!?
「……誰だ、お前?」
低く落ち着いた声が響いた。
振り返ると、コバルトグリーンの長髪をなびかせた長身の男性が立っていた。髪と同じ色の瞳。(一瞬右目は金色に光ったような)が、こちらを射抜くように見つめてくる。
「え? あ、えっと……ここって、どこ……?」
異空間+知らない男の登場というコンボに、頭が完全にショート。
反射的に出た言葉が、自分でもびっくりするほど間抜けだった。
「黒髪・黒い瞳……まさか、お前、異世界人か?」
「……い、異世界!?」
ちょ、待って。それ、ラノベとかでよくある異世界転生って言うやつ?
いやいや、まさかね。それは2次元の中での話。
……けどこの人、妙に真面目に考え込んでる。
「確かに人間族と魔族が対立している今、メシアが降臨してもおかしくは……ない。だが……歴代のメシアは皆、学生。お前は……明らかに成人しているだろう?」
「はぁ? まぁそうですけれど」
え、今さらっと失礼なこと言ったよね!?
メシア云々より、まずそこツッコむべきじゃない? アラサー女子にそれ言う?
思わずムッとして、今度はこちらが相手を観察する番。
褐色肌に手足は長く細身。堀の深い顔立ちでイケメンなんだろうけれど、目力が半端なくあるため怖いに一票。服装はアラビアみたいな異国風。
……いや、これ本当に異世界っぽくない?
でもさ、ラノベのテンプレだと
その一、召還の儀式。
魔法陣ドーン! 儀式バーン! 人間がザワザワ! みたいな。
なのにここはまぁ遺跡だけれど、魔方陣も儀式もない。辺りを見回しても、人はこの人だけ。会話からして男性は、召還士じゃないはず。
その二、神様あるいは女神様との会話。
もした記憶はございません。
そもそも、魔王退治とか絶対ムリ。どんなチートスキルが私にあったとしも、それだけは勘弁してほしい。
