君に会うために

「ねえ、前から思っていたこと言っていい? にゃん吉って私の言葉、理解してる?」

にゃん吉は私がお風呂を終えると必ず私の部屋に来て一緒に眠る。
私のベッドを自分のベッドと思っているらしい。

「そんなわけないか。猫がしゃべったら変だもんね」

いつも私が勝手ににゃん吉と会話しているつもりになっているだけだ。
にゃん吉がうまい具合に「にゃ〜」とか鳴いてくれるから、そこに自分の頭の中でにゃん吉のセリフを割り振っているのにすぎない。

「にゃ〜(いつもしゃべってるんだけどね。一体いつになったら吾輩がしゃべっているということを認めてくれるやら)」

「いつもしゃべっているって、あんたは『にゃ〜』しか言ってないじゃん」

「にゃ〜(そりゃ、こんな口だからね。人間と同じ発声や発音ができるわけないじゃないか)」

「ふ〜ん、そっか。ネットで見たことあるわ。人間は口の中に広い空間があるからしゃべれるみたいなこと」

「にゃ〜(そういうのは知らない。ただ、僕は煌乃(きらの)の脳内に直接話しかけている)」

「………ひょっとしてにゃん吉、本当に私にしゃべってくれてる?」

「にゃ〜(だから、そうだと言っている)」

思わずしげしげとにゃん吉を見つめてしまったけれど、まさかねえ。

「まあいっか。宿題やるね」

私の空想力もだいぶ(たくま)しいよなあ。