まっすぐ帰る気分にはなれず、澪と二人で学校の近くにある公園に寄った。小学生のころから私たちにとってお気に入りの公園だ。普段と違って、今日は子どもの姿が見えない。小学生や中学生にも、あの説明が行われたのだろうか。
「あんまり本当ぽくないよねえ。あの田中って人が、あんまり静かに話すから、全然本当の話に聞こえなかったよ」
ブランコを漕ぎながら、澪が言い、私は頷いた。
「そうだよね。私も、そう思った。本当なのかなあ」
「わかんない。でも、絶対に嫌だよ、そんなの。だって、うちのお姉ちゃんみたいに、結婚してウエディングドレス着たいもの。それが夢なのにさ、三年って。ハタチにもなれないなんて悲しいよ。でも、今から急いで彼氏探すわけにもいかないよね。何か新しい目標を探さなくちゃ」
良くも悪くも、澪は常に前向きだ。こんなときでも将来の夢を考えるなんて、すごいと思った。私は混乱しすぎて、とてもそこまでは考えられない。
「夢かあ」
私の夢も、澪と少しだけ似ている。結婚したいわけじゃないけれど、いつか寂しくない生活がしたい。毎日一人で過ごすのは、寂しいものだ。家にいるのに、まるで自分の居場所ではないようで。
「ごめん、瑞穂。ママが心配だから、もう帰るね。たぶん家に一人でいるはずなんだよね。この話を聞いて、怖がってるかもしれないし」
「うん、わかった」
「また明日!」
ブランコから飛び降りると、澪は手を振り公園を出て行った。澪を見送って、私は一人ベンチに座った。澪は、家族と仲がいい。彼女の話には、いつも「パパ」「ママ」「お姉ちゃん」が、たくさん出てくる。最近は姪っ子も生まれたようだ。家族と出掛けたり、ケンカをしたり。そんな澪の日常生活が、とても羨ましい。
また明日、か。
明日も私は、きっと寂しい。一人で目を覚まし、支度をして朝食を食べ、誰もいないリビングに向かって「いってきます」を言う。帰宅したら晩御飯を作り、一人で食べ、勉強してテレビを見て、日付が変わるころベッドに潜る。休みの日も、父が帰ってくるかもしれないと期待して、どこにも行けない。そうして毎週がっくりしながら月曜日の朝を迎える。もう二年もこんな生活をしているのに、いつまで経っても慣れることができない。
今までと同じように毎日学校に行って、勉強して、それから、その先は?
高校を卒業したら、自分の居場所を探すために、家を出るつもりだった。でも、このままじゃ、それもできそうにない。田中さんの言う通りなら、私たちは高校卒業前後に死んでしまう。過去に、何度か家出の計画を立てたことがある。でも、できなかった。父に良い子だと思われていたくて、直前になるといつも決心が鈍るのだ。学校にいるうちは寂しさが和らぐから、家出を考えても、いつもだらだらと先延ばしにしていた。
公園にいる間にも何度か父の携帯を鳴らしたが、アナウンスすら流れない。バッテリーが切れているのだろう。メールを送ろうと送信画面を開いてみたが、何を送ったらいいかわからなくなって結局やめた。「寂しくて怖いから帰ってきてほしい」と送ったとしても、父は仕事を優先するような気がする。連絡がついても帰ってきてくれなかったら、たぶんもっと寂しい。
こんな毎日のまま、人生が終わるのだろうか。そう考えたら、急に怖くなった。もちろん人類の滅亡も怖い。けれど、それまでの三年を、ずっと寂しく過ごすのも、とても怖いことだ。寂しくないと思える居場所を探しに行きたい。もしかしたら見つからないかもしれないけど、何もしないままで諦めるのは嫌だ。
生きられる期限が決まっていると言うのなら、一度だけでいいから、自由に行動してみたい。もしも見つからなかったら、また別な作戦を考える。無謀かもしれないけれど、寂しがっているだけじゃ、きっと何も変わらないだろう。父が忙しいのは、仕方のないことだ。私には変えられない。ならば、私が変わるしかない。
放り投げたカバンを拾い、家出をするために、私は家へと向かった。
「あんまり本当ぽくないよねえ。あの田中って人が、あんまり静かに話すから、全然本当の話に聞こえなかったよ」
ブランコを漕ぎながら、澪が言い、私は頷いた。
「そうだよね。私も、そう思った。本当なのかなあ」
「わかんない。でも、絶対に嫌だよ、そんなの。だって、うちのお姉ちゃんみたいに、結婚してウエディングドレス着たいもの。それが夢なのにさ、三年って。ハタチにもなれないなんて悲しいよ。でも、今から急いで彼氏探すわけにもいかないよね。何か新しい目標を探さなくちゃ」
良くも悪くも、澪は常に前向きだ。こんなときでも将来の夢を考えるなんて、すごいと思った。私は混乱しすぎて、とてもそこまでは考えられない。
「夢かあ」
私の夢も、澪と少しだけ似ている。結婚したいわけじゃないけれど、いつか寂しくない生活がしたい。毎日一人で過ごすのは、寂しいものだ。家にいるのに、まるで自分の居場所ではないようで。
「ごめん、瑞穂。ママが心配だから、もう帰るね。たぶん家に一人でいるはずなんだよね。この話を聞いて、怖がってるかもしれないし」
「うん、わかった」
「また明日!」
ブランコから飛び降りると、澪は手を振り公園を出て行った。澪を見送って、私は一人ベンチに座った。澪は、家族と仲がいい。彼女の話には、いつも「パパ」「ママ」「お姉ちゃん」が、たくさん出てくる。最近は姪っ子も生まれたようだ。家族と出掛けたり、ケンカをしたり。そんな澪の日常生活が、とても羨ましい。
また明日、か。
明日も私は、きっと寂しい。一人で目を覚まし、支度をして朝食を食べ、誰もいないリビングに向かって「いってきます」を言う。帰宅したら晩御飯を作り、一人で食べ、勉強してテレビを見て、日付が変わるころベッドに潜る。休みの日も、父が帰ってくるかもしれないと期待して、どこにも行けない。そうして毎週がっくりしながら月曜日の朝を迎える。もう二年もこんな生活をしているのに、いつまで経っても慣れることができない。
今までと同じように毎日学校に行って、勉強して、それから、その先は?
高校を卒業したら、自分の居場所を探すために、家を出るつもりだった。でも、このままじゃ、それもできそうにない。田中さんの言う通りなら、私たちは高校卒業前後に死んでしまう。過去に、何度か家出の計画を立てたことがある。でも、できなかった。父に良い子だと思われていたくて、直前になるといつも決心が鈍るのだ。学校にいるうちは寂しさが和らぐから、家出を考えても、いつもだらだらと先延ばしにしていた。
公園にいる間にも何度か父の携帯を鳴らしたが、アナウンスすら流れない。バッテリーが切れているのだろう。メールを送ろうと送信画面を開いてみたが、何を送ったらいいかわからなくなって結局やめた。「寂しくて怖いから帰ってきてほしい」と送ったとしても、父は仕事を優先するような気がする。連絡がついても帰ってきてくれなかったら、たぶんもっと寂しい。
こんな毎日のまま、人生が終わるのだろうか。そう考えたら、急に怖くなった。もちろん人類の滅亡も怖い。けれど、それまでの三年を、ずっと寂しく過ごすのも、とても怖いことだ。寂しくないと思える居場所を探しに行きたい。もしかしたら見つからないかもしれないけど、何もしないままで諦めるのは嫌だ。
生きられる期限が決まっていると言うのなら、一度だけでいいから、自由に行動してみたい。もしも見つからなかったら、また別な作戦を考える。無謀かもしれないけれど、寂しがっているだけじゃ、きっと何も変わらないだろう。父が忙しいのは、仕方のないことだ。私には変えられない。ならば、私が変わるしかない。
放り投げたカバンを拾い、家出をするために、私は家へと向かった。

