〇登校途中・朝
あんずがうつむきながら、トボトボと歩いている。
あんず(結局、昨日も手紙のこと、言い出せなかった……)
(「交際宣言」はなんとか止めてもらえたけど……)
残念そうなミナトの表情を思い出して、ため息をつくあんず。
その時、近くに立っていた女子数人があんずを見てひそひそ話をしている。
あんず(水戸原さんたち? なんだろう……?)
そこに千帆がやってくる。
千帆「おっはよー!」
あんず「あ、おはよー、千帆!」
千帆(あんずのけわしい顔を見て)「どうした? なんかあった?」
あんず「ううん、なんでもない」
千帆「そうだ! 今日の昼休みさ、お昼を食べながら委員会やるんだって。だからごめん、あんずと食べられない」
あんず「そっかー、了解」
〇中庭・お昼
あんずがお弁当を持って歩いている。
あんず(ひさびさの一人ランチかぁ。よく考えると、わたしって、千帆以外に友だちがいない?)
(まぁ、いいんだけど。勉強とか家事やってるほうが気楽だし……)
その時、後ろからカサッと葉っぱがこすれるような音。
あんずが「?」となって、振り向こうとした瞬間、ふいにうしろか身体に太い腕が回される。
あんず(え?)
あんず、「キャー」と叫ぼうとして、口を塞がれる。
振り向くと、ミナトの姿。
ミナト(耳元で小さく)「ごめん! 少しだけ静かにしてて」
そのまま、ずるずると植え込みの中に引っ張りこまれる。
そこは、植え込みと校舎の隙間。
大人の背丈以上の木が何本も立ち並び、葉っぱが足元から空まで覆い、隙間が隠れ家のようになっている。
その木の横を、女子たちが通り過ぎて行く。
女子「ミナトくーん」
女子「どこ行ったの? さっきまでここにいたよね?」
女子「お弁当作ってきたから、一緒に食べようよー!」
木の裏、地面に座った状態で、ミナトがあんずを後ろから抱え込む状態。
ドキドキしているあんず。
女子「教室に戻ったんじゃない?」
女子「行ってみようか」
そのまま、女子たちが去っていく。
それを確認して、口を開くミナト。
ミナト「いきなり、怖かったよな。ごめん」
あんず「う、うん……」
ミナト「もう何回も断っているのに、あの子たちだけ、みょうにしつこくて」
あんず、改めて周囲を見渡す。
あんず「こんな場所、あったんだ……」
ミナトいたずらっぽい表情で
ミナト「ビックリだろ? オレも偶然見つけたんだ。たまにここで昼寝してる」
あんず「篠崎くんが昼寝?」
あんず(清岡くんならわかるけど……)
ミナト「……『ミナト』だよ」
あんず「え?」
ミナト「だから、昨日も言ったよね? オレのことは『ミナト』って呼んで」
あんず「そ、そんなこと……」
あんず(言えるわけないじゃん!)
ミナト、そんなあんずの様子を見ながら、ニコニコしている。
ミナト「まぁ、ゆっくり慣れてくれればいいよ。時間はたっぷりあるんだし」
あんず「え?」
ミナト「それより、あんずもお昼ご飯まだだよね? いっしょに食べよう」
ミナトがお弁当を取り出して、ふたを開ける。色とりどりの中身。
あんず「わぁ、美味しそう!」
ミナト「だろ? 味見してみてよ。オレが作ったんだ」
ミナト「え? 自分で作ったの?」
ミナト「あぁ、毎日、作ってる」
あんず(心底、感心した様子で)「すごい……。ホントに何でもできるんだね」
ミナト(少し照れたように)「何でもできるは言い過ぎだよ。料理は好きなんだ」
あんず「へー」
ミナト「小さいころに料理を教えてくれた人がいて。オレの恩人みたいな人。いつかまたその人に会ったときのために、ずっと練習してきたんだ」
あんず「そうだったんだ」
ミナト「料理だけじゃない、勉強もコミュ力も……。あと、身長も頑張って伸ばしたんだ」
あんず「身長も?」
ミナト「うん、昔はかなりチビでさ」
あんず「ぜんぜん想像できないよ。……でも、そこまで思われて、その人は幸せだね」
ミナト「そう思う? オレのことは弟ぐらいにしか見てなかったけどね」
ちょっとしょげた様子のミナト。
「?」マークを浮かべるあんず。
あんず、一瞬ハッとなって
あんず(もしかして……その人って、女性なのかな……?)
すこしだけモンモンとするあんず。
ミナト(気を取り直したように)「ちなみに、おすすめはミートボール。これも手作り」
そう言って、ミナトがつまようじに刺さったミートボールを手にする。
それをあんずの口元に持っていく。
ミナト「はい、あーんして」
あんず「い、いや、それは……!」
ミナト「ほらっ」
ミナトにじっと見つめられて、何も言えないあんず。
おそるおそる口を開いてしまう。そこにミートボールを入れるミナト。
あんず(これじゃあ、昨日と同じじゃない)
(どうして? なんで、わたしは篠崎くんに逆らえないんだろう……)
あんずの唇の端がソースで少し汚れる。
ミナトがそれをソッと指で拭きとって、ペロリとなめる。
それを無言で、じっと見つめてしまうあんず。見つめ合う二人。
ミナトの顔が迫ってくる。
ミナト「あんず」
唇が触れそうになった瞬間、横を男子数人がバタバタバタと駆けていく。
我に返って、あわてて下を向くあんず。
あんず(ヤバい! 流されすぎ!!!!)
ミナト、横を通り過ぎて行った男子たちに一瞬、怒りの表情を向ける。(ゾクっとする男子たち)
ミナト、あきらめて、あんずの髪にキス。
あんず(!!!!!!)
ミナト「じゃあ、他のものも食べよっか。あんずのお弁当も見せてよ」
〇あんずの心の描写・いくつかの画像で見せる
あんず(モノ)「それからも……」
「行く先々で篠崎くんに会って、完全に篠崎くんペース」
「何度も、あの手紙はわたしじゃないって言おうと思ったのに……ぜんぜん上手く行かないんだよね……」
「このままじゃ、まずい。なんとかしなくちゃ……」
〇放課後・社会科資料室
あんずと森が並んで資料を棚に片づけている。
あんず「森くん、ありがとうね。おかげですぐに終わりそう」
森「いや、いいよ。この前はぼくが助けてもらったから……」
そのまま並んで資料を棚に片づける。
あんずが、一生懸命、作業をしている様子をじっと見つめる森。
意を決したように口を開く。
森「あ、あのさ……いきなりだけど、高梨さんって彼氏いるの?」
あんず「ええ? 彼氏?」
頭にミナトが浮かび、すぐには答えられないあんず。
森がため息をつく。
森「いるのか……」
あんず「ち、ちがう! いないよ、彼氏なんて!」
あんず(わたし、なんですぐに答えられなかったの? 篠崎くんへの告白は本当じゃないのに……)
森、ホッとした顔。
森「そっかー。モテそうなのに」
びっくりした顔のあんず。
あんず「そんなわけないじゃん。むしろ、ニガテだと思っている男子のほうが多そう。いつも口ウルサイし……」
森「まさか! 高梨さんのこと、気にしている男子、多いよ」
あんず「またまた~」
森「いや、本当だって! ぼくだって……」
ガン! ※何かを激しくたたく音。
あんずと森がビックリした顔で、音がした方(入り口付近)を見る。
ミナトがほほ笑みながらも、明らかに不機嫌そうな顔で、こぶしでドアを叩いている。
あんず(篠崎くん?)
あんずがうつむきながら、トボトボと歩いている。
あんず(結局、昨日も手紙のこと、言い出せなかった……)
(「交際宣言」はなんとか止めてもらえたけど……)
残念そうなミナトの表情を思い出して、ため息をつくあんず。
その時、近くに立っていた女子数人があんずを見てひそひそ話をしている。
あんず(水戸原さんたち? なんだろう……?)
そこに千帆がやってくる。
千帆「おっはよー!」
あんず「あ、おはよー、千帆!」
千帆(あんずのけわしい顔を見て)「どうした? なんかあった?」
あんず「ううん、なんでもない」
千帆「そうだ! 今日の昼休みさ、お昼を食べながら委員会やるんだって。だからごめん、あんずと食べられない」
あんず「そっかー、了解」
〇中庭・お昼
あんずがお弁当を持って歩いている。
あんず(ひさびさの一人ランチかぁ。よく考えると、わたしって、千帆以外に友だちがいない?)
(まぁ、いいんだけど。勉強とか家事やってるほうが気楽だし……)
その時、後ろからカサッと葉っぱがこすれるような音。
あんずが「?」となって、振り向こうとした瞬間、ふいにうしろか身体に太い腕が回される。
あんず(え?)
あんず、「キャー」と叫ぼうとして、口を塞がれる。
振り向くと、ミナトの姿。
ミナト(耳元で小さく)「ごめん! 少しだけ静かにしてて」
そのまま、ずるずると植え込みの中に引っ張りこまれる。
そこは、植え込みと校舎の隙間。
大人の背丈以上の木が何本も立ち並び、葉っぱが足元から空まで覆い、隙間が隠れ家のようになっている。
その木の横を、女子たちが通り過ぎて行く。
女子「ミナトくーん」
女子「どこ行ったの? さっきまでここにいたよね?」
女子「お弁当作ってきたから、一緒に食べようよー!」
木の裏、地面に座った状態で、ミナトがあんずを後ろから抱え込む状態。
ドキドキしているあんず。
女子「教室に戻ったんじゃない?」
女子「行ってみようか」
そのまま、女子たちが去っていく。
それを確認して、口を開くミナト。
ミナト「いきなり、怖かったよな。ごめん」
あんず「う、うん……」
ミナト「もう何回も断っているのに、あの子たちだけ、みょうにしつこくて」
あんず、改めて周囲を見渡す。
あんず「こんな場所、あったんだ……」
ミナトいたずらっぽい表情で
ミナト「ビックリだろ? オレも偶然見つけたんだ。たまにここで昼寝してる」
あんず「篠崎くんが昼寝?」
あんず(清岡くんならわかるけど……)
ミナト「……『ミナト』だよ」
あんず「え?」
ミナト「だから、昨日も言ったよね? オレのことは『ミナト』って呼んで」
あんず「そ、そんなこと……」
あんず(言えるわけないじゃん!)
ミナト、そんなあんずの様子を見ながら、ニコニコしている。
ミナト「まぁ、ゆっくり慣れてくれればいいよ。時間はたっぷりあるんだし」
あんず「え?」
ミナト「それより、あんずもお昼ご飯まだだよね? いっしょに食べよう」
ミナトがお弁当を取り出して、ふたを開ける。色とりどりの中身。
あんず「わぁ、美味しそう!」
ミナト「だろ? 味見してみてよ。オレが作ったんだ」
ミナト「え? 自分で作ったの?」
ミナト「あぁ、毎日、作ってる」
あんず(心底、感心した様子で)「すごい……。ホントに何でもできるんだね」
ミナト(少し照れたように)「何でもできるは言い過ぎだよ。料理は好きなんだ」
あんず「へー」
ミナト「小さいころに料理を教えてくれた人がいて。オレの恩人みたいな人。いつかまたその人に会ったときのために、ずっと練習してきたんだ」
あんず「そうだったんだ」
ミナト「料理だけじゃない、勉強もコミュ力も……。あと、身長も頑張って伸ばしたんだ」
あんず「身長も?」
ミナト「うん、昔はかなりチビでさ」
あんず「ぜんぜん想像できないよ。……でも、そこまで思われて、その人は幸せだね」
ミナト「そう思う? オレのことは弟ぐらいにしか見てなかったけどね」
ちょっとしょげた様子のミナト。
「?」マークを浮かべるあんず。
あんず、一瞬ハッとなって
あんず(もしかして……その人って、女性なのかな……?)
すこしだけモンモンとするあんず。
ミナト(気を取り直したように)「ちなみに、おすすめはミートボール。これも手作り」
そう言って、ミナトがつまようじに刺さったミートボールを手にする。
それをあんずの口元に持っていく。
ミナト「はい、あーんして」
あんず「い、いや、それは……!」
ミナト「ほらっ」
ミナトにじっと見つめられて、何も言えないあんず。
おそるおそる口を開いてしまう。そこにミートボールを入れるミナト。
あんず(これじゃあ、昨日と同じじゃない)
(どうして? なんで、わたしは篠崎くんに逆らえないんだろう……)
あんずの唇の端がソースで少し汚れる。
ミナトがそれをソッと指で拭きとって、ペロリとなめる。
それを無言で、じっと見つめてしまうあんず。見つめ合う二人。
ミナトの顔が迫ってくる。
ミナト「あんず」
唇が触れそうになった瞬間、横を男子数人がバタバタバタと駆けていく。
我に返って、あわてて下を向くあんず。
あんず(ヤバい! 流されすぎ!!!!)
ミナト、横を通り過ぎて行った男子たちに一瞬、怒りの表情を向ける。(ゾクっとする男子たち)
ミナト、あきらめて、あんずの髪にキス。
あんず(!!!!!!)
ミナト「じゃあ、他のものも食べよっか。あんずのお弁当も見せてよ」
〇あんずの心の描写・いくつかの画像で見せる
あんず(モノ)「それからも……」
「行く先々で篠崎くんに会って、完全に篠崎くんペース」
「何度も、あの手紙はわたしじゃないって言おうと思ったのに……ぜんぜん上手く行かないんだよね……」
「このままじゃ、まずい。なんとかしなくちゃ……」
〇放課後・社会科資料室
あんずと森が並んで資料を棚に片づけている。
あんず「森くん、ありがとうね。おかげですぐに終わりそう」
森「いや、いいよ。この前はぼくが助けてもらったから……」
そのまま並んで資料を棚に片づける。
あんずが、一生懸命、作業をしている様子をじっと見つめる森。
意を決したように口を開く。
森「あ、あのさ……いきなりだけど、高梨さんって彼氏いるの?」
あんず「ええ? 彼氏?」
頭にミナトが浮かび、すぐには答えられないあんず。
森がため息をつく。
森「いるのか……」
あんず「ち、ちがう! いないよ、彼氏なんて!」
あんず(わたし、なんですぐに答えられなかったの? 篠崎くんへの告白は本当じゃないのに……)
森、ホッとした顔。
森「そっかー。モテそうなのに」
びっくりした顔のあんず。
あんず「そんなわけないじゃん。むしろ、ニガテだと思っている男子のほうが多そう。いつも口ウルサイし……」
森「まさか! 高梨さんのこと、気にしている男子、多いよ」
あんず「またまた~」
森「いや、本当だって! ぼくだって……」
ガン! ※何かを激しくたたく音。
あんずと森がビックリした顔で、音がした方(入り口付近)を見る。
ミナトがほほ笑みながらも、明らかに不機嫌そうな顔で、こぶしでドアを叩いている。
あんず(篠崎くん?)
