〇3話のつづき。帰り道
とつぜん現れたミナトがあんずの横に並んで歩きはじめる。
あんずはキョロキョロと周囲を見渡す。だれもいないことがわかってホッとする。
ミナト「もしかして、オレに連絡するところだったりして……」
いたずらっぽい顔のミナト。
あんず「うん……」
ミナト「え? ホントに? うわっ! 声かけなきゃよかった!」
キョトンとするあんず
ミナト「だって、あんずからの連絡、すげーほしかったから。せっかくのチャンスを逃すなんて……」
ビックリするあんず。
あんず(こ、この人、毎回、直球すぎじゃない?)
しかしすぐに千帆の言った言葉が頭に浮かぶ。
『グイグイ押してくる男って、ロクなのいないから』
『あんずって、意外と押しに弱そうじゃん』
ブルブルと頭をふるあんず。
あんず(ダメダメ、あんず。しっかりしろ!!!)
ミナト「手は大丈夫だった?」
あんず「うん。保健室で薬を塗ってもらったから。跡は残らないだろうって」
ミナト「良かった!」
あんず「あの……」
ミナト「なに?」
あんず「今日は、……ありがとう。助けてくれて」
ミナト「どういたしまして。あんずの役に立てて、うれしいよ」
あんず、胸がキュンとなる。
ミナト「それにしても、あんずにも苦手なことってあるんだな」
あんず「え?」
ミナト「手つきがぎこちなかったから……料理、苦手なのかなって」
あんず(ウソ? 見てたんだ……)
ミナト「いつも、何でもテキパキこなしているイメージだったから、意外」
あんず(『いつも』って……?)
ミナトがふいにあんずの左手をつかむ。ビクッとなるあんず。
ミナト「ここに古いやけどの跡があるよね」
あんず目を見開く。
あんず(なんで気づいたの? もうかなり薄くなってるのに……)
※薄くはなっているが、範囲はかなり広い。
ミナト「もしかして、これが、料理が苦手な理由とか?」
あんず、ビックリして言葉が出ない。
しばし、悩んだあと、小さくうなずく。
ミナトの顔がくもる。
ミナト「やっぱり……」
あんず「……昔は、料理、けっこう好きだったんだけどね」
ミナト「もし、イヤじゃなかったら、何があったか聞いてもいい?」
あんず(ちょっとためらったあと)「そんな面白い話じゃないよ。小学生のころに少しだけ仲良くしていた友だちがいて、その子と料理をしたときにボヤを起こしちゃったの。それで……」‘
ミナト「友だち?」
あんず「うん。うちの母親と同じ病院に入院していた子……」
あんず、その男の子の姿を思い浮かべる。
あんずより小柄で、すごくきれいな顔をしている。パジャマで足にギプスを付けて、松葉づえで歩いている。
あんず(あれ?)
(なんか、篠崎くんに似ているような……)
(まさかね。あの子の名前は「かずさ」だったし……)
ミナト「あんずの初恋とか?」
あんず、笑って首をふる。
あんず「あはは、違うよ。すっごいヤンチャで、弟がひとり増えたみたいだったの」
ちょっとショックを受けた様子のミナト。
ミナト「そうなんだ……」
あんず(遠い目をしながら)「料理をしようって言い出したの、わたしだったの。その子が退院した後に会って……元気がないから、励まそうと思ったんだ。でも、ボヤの時、その子、すごく怖がってた……」
過去の画像:恐怖に震えるかずさを見て、ショックを受けるあんずの姿。
あんず「わたしのせいだって思ったら、怖くて。そこから、料理が苦手になっちゃったの」
しんみりした空気。
ミナトがあんずの頭に手を乗せる。ハッとなるあんず。
ミナト「ごめん。イヤなこと思い出させて……」
そして、ミナトはあんずの手を取ると、やけどの跡にキスをする。深刻そうな表情。
ミナト「本当にごめん」
あんず、パッと手をひっこめながら、
あんず「そ、そこまで謝ってもらわなくても大丈夫だよ。最近は、すこしずつまた料理してるんだ!」
ミナト「そうなんだ。良かった」
あんず「ただ、あの日以来、その子にはもう二度と会えなかったの。なんだか、悪い思い出だけ作っちゃったみたいで、申し訳なくて……」
ミナト「そんなことないよ。そいつはきっと、あんずの気持ちをちゃんとわかって、感謝していると思うよ」
あんず「そうかな……だったら、いいけど……」
あんず(どうしてだろう……まるで、本当にかずさくんに言われているみたい……)
そのまま引きの画像。
〇ホームルームの後・1年2組の教室
あんずは教壇に立っている。
あんず「それじゃあ、今日の学活はこれで終了です。お疲れさまでした!」
ざわざわと騒がしくなる教室。あんずは、黒板を消し始める。
そこに千帆がやってくる。
千帆「あんず!」
振り返るあんず。
千帆「今日、一緒に帰らない?」
あんず「ごめん! 今日はちょっと……」
千帆「そっかー。アイスでも奢ってあげようと思ったんだけど」
あんず「え? なんで?」
千帆「昨日、けっこう落ちこんでたからさ……でも、なんかスッキリした顔してるね」
あんず「そうかな?」
千帆「うん。元気になったなら良かったよ。じゃあ、また明日!」
〇夕方・カフェ
あんずとミナトが向かい合って座っている。
あんず、タルトを一口食べて、目を輝かせる。
あんず「おいしーーーー!!!」
満足そうに笑うミナト。
ミナト「だろ? ここのデザート、何食べてもウマいんだ。学校から離れているから、うちの生徒には全然知られてないけど」
コクコクとうなずくあんず。
あんず「わたし、タルトがすごく好きなの」
ミナト「へー、そうだったんだ」※ちょっと意味深な様子のミナト。
そのまま話がはずむシーン。
だけど、あんずは途中でハッとなる。
あんず(ヤバい! なにすっかり楽しんじゃってるの? これじゃあ、本当にデートみたいじゃない!)
【あんずの回想】昨日の帰り道のシーン続き、別れ際
あんず「じゃあ、わたしはこっちだから。……今日は本当にありがとう! スティックパイもすごくおいしかった!」
「何か困ったことがあったら、言ってね。わたしもお返ししたいから」
ミナト「それはうれしいな……じゃあ、さっそくなんだけど……」
あんず「え?」
ミナト「明日、一緒に行ってほしいところがあるんだ。オレたちの初デート」
〇現在に戻る。
あんず(助けてもらったし、断れなかったんだよね……)
(でも、今日こそ、あの手紙はわたしじゃないって言わなきゃ……)
ミナト「そういえばさ、そろそろ良くない?」
あんず「なにが?」
あんず、首をかしげる。
ミナト「オレたちが付き合っていること、みんなに話そうよ」
あんず、飲んでいた紅茶をふきだす。
あんず「えええええええええ?」
ミナト「じつは……あんまりこういう話をあんずにしたくないんだけど……、昨日また告白されたんだ。彼女いるってわかれば、言ってこなくなるだろうし」
あんず(すごすぎる。篠崎くん、どんだけモテるの!?)
あんず(っていうか、早く誤解を解かなきゃ!)
あんず「あ、あのね、篠崎くん! 手紙のことなんだけど……」
ミナト「『ミナト』」
あんず「え?」
ミナト「あんずのことは名前で呼んでるんだから、オレのことも『ミナト』って呼んでよ」
あんず「えっと、いま、その話は……」
ミナトが自分の持っていたスプーンをあんずの口に入れる。
あんず「んん」
ミナト「ほら、こっちのタルトも美味しいでしょ?」
あんず(飲み込みながら)「う、うん。おいしいけど……」
ミナト(顔を近づけながらニッコリ笑って)「関節キスだね」
その顔にドキリとして顔を赤くするあんず。
ミナトからの視点であんずの唇をアップ。
ミナト「早くオレも食べたいな」
あんず「え……?」
そのままニッコリほほ笑むミナト。すこしあやしい笑顔。
そんなふたりの様子を誰かが見ている。シルエットのみで誰かはわからない。※後から森だとわかる。
とつぜん現れたミナトがあんずの横に並んで歩きはじめる。
あんずはキョロキョロと周囲を見渡す。だれもいないことがわかってホッとする。
ミナト「もしかして、オレに連絡するところだったりして……」
いたずらっぽい顔のミナト。
あんず「うん……」
ミナト「え? ホントに? うわっ! 声かけなきゃよかった!」
キョトンとするあんず
ミナト「だって、あんずからの連絡、すげーほしかったから。せっかくのチャンスを逃すなんて……」
ビックリするあんず。
あんず(こ、この人、毎回、直球すぎじゃない?)
しかしすぐに千帆の言った言葉が頭に浮かぶ。
『グイグイ押してくる男って、ロクなのいないから』
『あんずって、意外と押しに弱そうじゃん』
ブルブルと頭をふるあんず。
あんず(ダメダメ、あんず。しっかりしろ!!!)
ミナト「手は大丈夫だった?」
あんず「うん。保健室で薬を塗ってもらったから。跡は残らないだろうって」
ミナト「良かった!」
あんず「あの……」
ミナト「なに?」
あんず「今日は、……ありがとう。助けてくれて」
ミナト「どういたしまして。あんずの役に立てて、うれしいよ」
あんず、胸がキュンとなる。
ミナト「それにしても、あんずにも苦手なことってあるんだな」
あんず「え?」
ミナト「手つきがぎこちなかったから……料理、苦手なのかなって」
あんず(ウソ? 見てたんだ……)
ミナト「いつも、何でもテキパキこなしているイメージだったから、意外」
あんず(『いつも』って……?)
ミナトがふいにあんずの左手をつかむ。ビクッとなるあんず。
ミナト「ここに古いやけどの跡があるよね」
あんず目を見開く。
あんず(なんで気づいたの? もうかなり薄くなってるのに……)
※薄くはなっているが、範囲はかなり広い。
ミナト「もしかして、これが、料理が苦手な理由とか?」
あんず、ビックリして言葉が出ない。
しばし、悩んだあと、小さくうなずく。
ミナトの顔がくもる。
ミナト「やっぱり……」
あんず「……昔は、料理、けっこう好きだったんだけどね」
ミナト「もし、イヤじゃなかったら、何があったか聞いてもいい?」
あんず(ちょっとためらったあと)「そんな面白い話じゃないよ。小学生のころに少しだけ仲良くしていた友だちがいて、その子と料理をしたときにボヤを起こしちゃったの。それで……」‘
ミナト「友だち?」
あんず「うん。うちの母親と同じ病院に入院していた子……」
あんず、その男の子の姿を思い浮かべる。
あんずより小柄で、すごくきれいな顔をしている。パジャマで足にギプスを付けて、松葉づえで歩いている。
あんず(あれ?)
(なんか、篠崎くんに似ているような……)
(まさかね。あの子の名前は「かずさ」だったし……)
ミナト「あんずの初恋とか?」
あんず、笑って首をふる。
あんず「あはは、違うよ。すっごいヤンチャで、弟がひとり増えたみたいだったの」
ちょっとショックを受けた様子のミナト。
ミナト「そうなんだ……」
あんず(遠い目をしながら)「料理をしようって言い出したの、わたしだったの。その子が退院した後に会って……元気がないから、励まそうと思ったんだ。でも、ボヤの時、その子、すごく怖がってた……」
過去の画像:恐怖に震えるかずさを見て、ショックを受けるあんずの姿。
あんず「わたしのせいだって思ったら、怖くて。そこから、料理が苦手になっちゃったの」
しんみりした空気。
ミナトがあんずの頭に手を乗せる。ハッとなるあんず。
ミナト「ごめん。イヤなこと思い出させて……」
そして、ミナトはあんずの手を取ると、やけどの跡にキスをする。深刻そうな表情。
ミナト「本当にごめん」
あんず、パッと手をひっこめながら、
あんず「そ、そこまで謝ってもらわなくても大丈夫だよ。最近は、すこしずつまた料理してるんだ!」
ミナト「そうなんだ。良かった」
あんず「ただ、あの日以来、その子にはもう二度と会えなかったの。なんだか、悪い思い出だけ作っちゃったみたいで、申し訳なくて……」
ミナト「そんなことないよ。そいつはきっと、あんずの気持ちをちゃんとわかって、感謝していると思うよ」
あんず「そうかな……だったら、いいけど……」
あんず(どうしてだろう……まるで、本当にかずさくんに言われているみたい……)
そのまま引きの画像。
〇ホームルームの後・1年2組の教室
あんずは教壇に立っている。
あんず「それじゃあ、今日の学活はこれで終了です。お疲れさまでした!」
ざわざわと騒がしくなる教室。あんずは、黒板を消し始める。
そこに千帆がやってくる。
千帆「あんず!」
振り返るあんず。
千帆「今日、一緒に帰らない?」
あんず「ごめん! 今日はちょっと……」
千帆「そっかー。アイスでも奢ってあげようと思ったんだけど」
あんず「え? なんで?」
千帆「昨日、けっこう落ちこんでたからさ……でも、なんかスッキリした顔してるね」
あんず「そうかな?」
千帆「うん。元気になったなら良かったよ。じゃあ、また明日!」
〇夕方・カフェ
あんずとミナトが向かい合って座っている。
あんず、タルトを一口食べて、目を輝かせる。
あんず「おいしーーーー!!!」
満足そうに笑うミナト。
ミナト「だろ? ここのデザート、何食べてもウマいんだ。学校から離れているから、うちの生徒には全然知られてないけど」
コクコクとうなずくあんず。
あんず「わたし、タルトがすごく好きなの」
ミナト「へー、そうだったんだ」※ちょっと意味深な様子のミナト。
そのまま話がはずむシーン。
だけど、あんずは途中でハッとなる。
あんず(ヤバい! なにすっかり楽しんじゃってるの? これじゃあ、本当にデートみたいじゃない!)
【あんずの回想】昨日の帰り道のシーン続き、別れ際
あんず「じゃあ、わたしはこっちだから。……今日は本当にありがとう! スティックパイもすごくおいしかった!」
「何か困ったことがあったら、言ってね。わたしもお返ししたいから」
ミナト「それはうれしいな……じゃあ、さっそくなんだけど……」
あんず「え?」
ミナト「明日、一緒に行ってほしいところがあるんだ。オレたちの初デート」
〇現在に戻る。
あんず(助けてもらったし、断れなかったんだよね……)
(でも、今日こそ、あの手紙はわたしじゃないって言わなきゃ……)
ミナト「そういえばさ、そろそろ良くない?」
あんず「なにが?」
あんず、首をかしげる。
ミナト「オレたちが付き合っていること、みんなに話そうよ」
あんず、飲んでいた紅茶をふきだす。
あんず「えええええええええ?」
ミナト「じつは……あんまりこういう話をあんずにしたくないんだけど……、昨日また告白されたんだ。彼女いるってわかれば、言ってこなくなるだろうし」
あんず(すごすぎる。篠崎くん、どんだけモテるの!?)
あんず(っていうか、早く誤解を解かなきゃ!)
あんず「あ、あのね、篠崎くん! 手紙のことなんだけど……」
ミナト「『ミナト』」
あんず「え?」
ミナト「あんずのことは名前で呼んでるんだから、オレのことも『ミナト』って呼んでよ」
あんず「えっと、いま、その話は……」
ミナトが自分の持っていたスプーンをあんずの口に入れる。
あんず「んん」
ミナト「ほら、こっちのタルトも美味しいでしょ?」
あんず(飲み込みながら)「う、うん。おいしいけど……」
ミナト(顔を近づけながらニッコリ笑って)「関節キスだね」
その顔にドキリとして顔を赤くするあんず。
ミナトからの視点であんずの唇をアップ。
ミナト「早くオレも食べたいな」
あんず「え……?」
そのままニッコリほほ笑むミナト。すこしあやしい笑顔。
そんなふたりの様子を誰かが見ている。シルエットのみで誰かはわからない。※後から森だとわかる。
