〇翌日朝・1年2組の教室
友だちに慰められながら、泣いている女子がいる。
なんだろう?とそちらを見るあんず。千帆が話しかけてくる。
千帆「彼氏に1か月でフラれたんだって」
あんず「1か月……そんなに早く?」
千帆「バイトの先輩らしいよ。押しまくられて付き合い出したみたい。なのに、もう飽きたって」
あんず「うわ……」
千帆「あの子も悪いよ。グイグイ押してくる男って、ロクなのいないんだから。あんずも気を付けたほうがいいよ」
あんず「え?」
千帆「あんずって、意外と押しに弱そうじゃん」
あんず「はは……」
あんず(笑えない……)
(手紙はわたしじゃないって、メッセージ送れば済む話なのに……)
(なんで、わたし、躊躇しているんだろう……)
あんず、昨日のミナトに抱きしめられたことや、切なそうな顔を思い出して、少しだけ赤くなる。
しかし、顔を上げて、
あんず(いやいやいや、何ほだされてんの? これじゃあ、千帆の言う通りだよ!!! そもそも、何の接点もないのに、篠崎くんがわたしを好きなんてありえない!)
そこにクラスメートの女子が教室に飛びこんでくる。
女子「ビックニュース!!!」
なになに?と女子たちがさわぐ。
女子「今日の調理実習、6組とだって!!!」
「ワー」「キャー」と歓声があがる。
女子「ミナトくんのエプロン姿?」
女子「やったー!!!」
女子「ラッキー! 今日、アップルパイだよね。お菓子系、めちゃ得意!」
はしゃぐ女子たち。
千帆「うわー、すごいことになりそうだね」
千帆がそう言いながら振り返って、あんずの青ざめた顔を見て、「あっ」となる。
千帆「あんず、料理、まだダメ?」
あんず「う、うん。最近は、少しずつやろうとしているんだけど……」
そのまま無言になる。心配そうな千帆の表情。
そんなあんずと千帆の様子を自分の席から清岡がこっそり見ている。
※机に顔をつっぷしたまま、目だけ出して見ている。
〇家庭科室・調理実習
家庭科室がざわめている。
エプロンと三角巾を付けたミナトが、リンゴを器用に?いている。
女子「ミナトくん、すごーい! 料理もできるんだ!」
女子「完ぺきすぎ!!!」
あきれた表情の男子たち。
男子「おい、ミナト! おまえ少しぐらい遠慮しろ」
男子「そうだぞ! ここは、失敗してリンゴを転がすところだろう」
男子「それはそれで、『カワイイ』とかなりそうだけどな……」
そんなミナトをよそに、すこし離れた場所で、リンゴの皮むきに悪戦苦闘しているあんず。
千帆「あんず、大丈夫? 手伝おうか?」
あんず「ありがとう……でも、あと少しで、できそうだから……」
横で千帆はパイシートを伸ばしている。
同じ班の他の子はクリームを作ったり、パイシートをカットなど、それぞれの作業に夢中。
リンゴのカットが終わって、鍋で加熱しはじめるあんず。ぎこちない動き。
それを遠くからじっと見つめるミナト。
あんず「ふー」
ひと息ついて、ミナトを見ると、すでにパイを包む段階に入っている。
まわりでキャーキャーさわぐ女子たち。
あんず(すごいなぁ。ホントに何でもできるんだね)
あんず(やっぱり、あんな人がわたしみたいな地味女子、好きなはずないと思うんだけど……)
ぼーっとするあんず。千帆の叫び声。
千帆「あんず! こげてる?」
あんず「え?」
あわてるあんず。急いでコンロの火を止めようとして、鍋をひっくり返してしまう。
べちゃ。床に落ちるリンゴ。
さあーーと周りが引く音がする。
女子「ちょっと! 委員長! なにやってんの?」
女子「うわぁ、最悪! これ、もう使えないじゃん……」
まわりからひそひそする声。
女子「委員長って、もしかして不器用?」「えー、いつも何でもできるって顔してるのに?」
そこにとつぜん、ミナトが割り込んできて、あんずの左手の手首をぐっとつかむ。
ハッと顔を上げるあんず。
ミナト「左手、鍋に当たったよな?」
あんずの左手の中指が赤くなっている。
すぐに水道から水を出して、あんずの手を冷やすミナト。
ポケットからハンカチを出して、あんずの手を拭く。
ミナト「これ、今日はまだ使ってないから」
あんず「ありがとう」
ミナト「あとで、薬を塗ったほうがいいとは思うけど……」
そして、いきなり指をパクリとくわえる。
あんずを含めて、その場にいた全員がかたまる。
あんず「な、な、なにしてんのーーーー!?」
そして、左手をばっと引っ張り戻す。
ポカンとするクラスメートたち。
ミナト(悪びれた様子もなく)「いや、応急処置」
あんず(はああああああ?)
千帆「そ、それは、もはやセクハラでは……?」
女子たちもハッと我に返ったようにしゃべり出す(ひきつった顔)。
女子「やだー、ミナトくん、ビックリした~」
女子「いいなぁ。わたしもやけどしちゃおうかなぁ」
千帆(あんずの耳元で)「篠崎くんって、もしや天然?」
何も言えないあんず。
そのとき、あんずの班の男子のひとりが口を開く。
男子「でも、どうすんだよー。オレらだけ、アップルパイなし???」
不満そうな班の面々。
あんずはみんなの前に飛び出して、深々頭を下げる。
あんず「ごめん! あまっているリンゴがないか、すぐに確認するから!」
女子「えー、でも、今から作り直すの時間足りなくない?」
あんず「それは……」
ミナトがあんずを守るように前に出て、みんなの前に立つ。
ミナト「そのことだけど……ちょっとアレンジしてみてもいいかな?」
女子「え? アレンジ?」
ミナト「あぁ。これをこうして……」
ミナトがカットされたパイシートをくるくるとねじり始める。
ミナト「手伝ってもらっていい?」
声をかけられた班の子たちが、同じ作業を始める。
効果音:じゃーん
天板の上に細長くクルクルとねじられたパイシートが並んでいる。
ミナト「で、シナモンシュガーをこの上からふりかける」
オーブンに天板を入れる。
スティックパイの完成。
みんなから歓声が上がる。
男子たち「うわー、ウマそう!」
女子たち「なんか、これもいいね!」
ホッとするあんず。ミナトがあんずを見て、こっそりウィンクする。
あんず、ドキリとする。
〇放課後・ひとり帰宅途中のあんず
スマホとにらめっこしている。
あんず(お礼を言うべきだよね……)(でも、わたしから連絡するってどうなの?)
あんず「はぁ……」
ミナト「スマホがどうかした?」
とつぜん横に並んだミナトから声をかけられ、あんずは声にならない悲鳴を上げる。
友だちに慰められながら、泣いている女子がいる。
なんだろう?とそちらを見るあんず。千帆が話しかけてくる。
千帆「彼氏に1か月でフラれたんだって」
あんず「1か月……そんなに早く?」
千帆「バイトの先輩らしいよ。押しまくられて付き合い出したみたい。なのに、もう飽きたって」
あんず「うわ……」
千帆「あの子も悪いよ。グイグイ押してくる男って、ロクなのいないんだから。あんずも気を付けたほうがいいよ」
あんず「え?」
千帆「あんずって、意外と押しに弱そうじゃん」
あんず「はは……」
あんず(笑えない……)
(手紙はわたしじゃないって、メッセージ送れば済む話なのに……)
(なんで、わたし、躊躇しているんだろう……)
あんず、昨日のミナトに抱きしめられたことや、切なそうな顔を思い出して、少しだけ赤くなる。
しかし、顔を上げて、
あんず(いやいやいや、何ほだされてんの? これじゃあ、千帆の言う通りだよ!!! そもそも、何の接点もないのに、篠崎くんがわたしを好きなんてありえない!)
そこにクラスメートの女子が教室に飛びこんでくる。
女子「ビックニュース!!!」
なになに?と女子たちがさわぐ。
女子「今日の調理実習、6組とだって!!!」
「ワー」「キャー」と歓声があがる。
女子「ミナトくんのエプロン姿?」
女子「やったー!!!」
女子「ラッキー! 今日、アップルパイだよね。お菓子系、めちゃ得意!」
はしゃぐ女子たち。
千帆「うわー、すごいことになりそうだね」
千帆がそう言いながら振り返って、あんずの青ざめた顔を見て、「あっ」となる。
千帆「あんず、料理、まだダメ?」
あんず「う、うん。最近は、少しずつやろうとしているんだけど……」
そのまま無言になる。心配そうな千帆の表情。
そんなあんずと千帆の様子を自分の席から清岡がこっそり見ている。
※机に顔をつっぷしたまま、目だけ出して見ている。
〇家庭科室・調理実習
家庭科室がざわめている。
エプロンと三角巾を付けたミナトが、リンゴを器用に?いている。
女子「ミナトくん、すごーい! 料理もできるんだ!」
女子「完ぺきすぎ!!!」
あきれた表情の男子たち。
男子「おい、ミナト! おまえ少しぐらい遠慮しろ」
男子「そうだぞ! ここは、失敗してリンゴを転がすところだろう」
男子「それはそれで、『カワイイ』とかなりそうだけどな……」
そんなミナトをよそに、すこし離れた場所で、リンゴの皮むきに悪戦苦闘しているあんず。
千帆「あんず、大丈夫? 手伝おうか?」
あんず「ありがとう……でも、あと少しで、できそうだから……」
横で千帆はパイシートを伸ばしている。
同じ班の他の子はクリームを作ったり、パイシートをカットなど、それぞれの作業に夢中。
リンゴのカットが終わって、鍋で加熱しはじめるあんず。ぎこちない動き。
それを遠くからじっと見つめるミナト。
あんず「ふー」
ひと息ついて、ミナトを見ると、すでにパイを包む段階に入っている。
まわりでキャーキャーさわぐ女子たち。
あんず(すごいなぁ。ホントに何でもできるんだね)
あんず(やっぱり、あんな人がわたしみたいな地味女子、好きなはずないと思うんだけど……)
ぼーっとするあんず。千帆の叫び声。
千帆「あんず! こげてる?」
あんず「え?」
あわてるあんず。急いでコンロの火を止めようとして、鍋をひっくり返してしまう。
べちゃ。床に落ちるリンゴ。
さあーーと周りが引く音がする。
女子「ちょっと! 委員長! なにやってんの?」
女子「うわぁ、最悪! これ、もう使えないじゃん……」
まわりからひそひそする声。
女子「委員長って、もしかして不器用?」「えー、いつも何でもできるって顔してるのに?」
そこにとつぜん、ミナトが割り込んできて、あんずの左手の手首をぐっとつかむ。
ハッと顔を上げるあんず。
ミナト「左手、鍋に当たったよな?」
あんずの左手の中指が赤くなっている。
すぐに水道から水を出して、あんずの手を冷やすミナト。
ポケットからハンカチを出して、あんずの手を拭く。
ミナト「これ、今日はまだ使ってないから」
あんず「ありがとう」
ミナト「あとで、薬を塗ったほうがいいとは思うけど……」
そして、いきなり指をパクリとくわえる。
あんずを含めて、その場にいた全員がかたまる。
あんず「な、な、なにしてんのーーーー!?」
そして、左手をばっと引っ張り戻す。
ポカンとするクラスメートたち。
ミナト(悪びれた様子もなく)「いや、応急処置」
あんず(はああああああ?)
千帆「そ、それは、もはやセクハラでは……?」
女子たちもハッと我に返ったようにしゃべり出す(ひきつった顔)。
女子「やだー、ミナトくん、ビックリした~」
女子「いいなぁ。わたしもやけどしちゃおうかなぁ」
千帆(あんずの耳元で)「篠崎くんって、もしや天然?」
何も言えないあんず。
そのとき、あんずの班の男子のひとりが口を開く。
男子「でも、どうすんだよー。オレらだけ、アップルパイなし???」
不満そうな班の面々。
あんずはみんなの前に飛び出して、深々頭を下げる。
あんず「ごめん! あまっているリンゴがないか、すぐに確認するから!」
女子「えー、でも、今から作り直すの時間足りなくない?」
あんず「それは……」
ミナトがあんずを守るように前に出て、みんなの前に立つ。
ミナト「そのことだけど……ちょっとアレンジしてみてもいいかな?」
女子「え? アレンジ?」
ミナト「あぁ。これをこうして……」
ミナトがカットされたパイシートをくるくるとねじり始める。
ミナト「手伝ってもらっていい?」
声をかけられた班の子たちが、同じ作業を始める。
効果音:じゃーん
天板の上に細長くクルクルとねじられたパイシートが並んでいる。
ミナト「で、シナモンシュガーをこの上からふりかける」
オーブンに天板を入れる。
スティックパイの完成。
みんなから歓声が上がる。
男子たち「うわー、ウマそう!」
女子たち「なんか、これもいいね!」
ホッとするあんず。ミナトがあんずを見て、こっそりウィンクする。
あんず、ドキリとする。
〇放課後・ひとり帰宅途中のあんず
スマホとにらめっこしている。
あんず(お礼を言うべきだよね……)(でも、わたしから連絡するってどうなの?)
あんず「はぁ……」
ミナト「スマホがどうかした?」
とつぜん横に並んだミナトから声をかけられ、あんずは声にならない悲鳴を上げる。
