〇冒頭:ひとけのない学校の中庭・夕方
主人公・あんずの顔アップ。
「え……」
メガネの奥で、目をまんまるにした主人公・あんず。
目の前には、あか抜けた雰囲気の長身イケメン男子・ミナト。
手には開封した手紙を持っている。
ミナト「だから、OKだって。オレ、この告白受けるよ、高梨さん」
状況がのみこめず、ポカンとするあんず。
ミナト「でも、高梨さんって、イメージと違って積極的なんだね。ビックリした」
あんず「ちょ、ちょっと待って……いったい何の話……?」
ミナト「オレのこと好きって言うのも、すごい意外だし……まぁ、うれしいけど」
そう言って、照れたようすで顔をのぞきこまれて、思わずドキリとするあんず。
あんず(うわ、ほんっと、ウワサ通りの超イケメンっ! って……そんなこと考えてる場合じゃない! いったいどういうこと!?)
しかし、次の瞬間、あんずは、ハッとなってミナトの持っていた手紙に飛びつく。

便箋の真ん中には、かわいらしい文字で、
「ミナトくんへ 
好きです。
付き合ってください。
今日16時に中庭で待ってます。
1年2組 高梨あんず」

あんず(モノ):なにこれ? わたし、こんな手紙送ってないんですけどーーー!!!

〇朝・通学途中
あんずが親友の千帆(ちほ)と並んで歩いている。
※千帆はおでこを出したあごまでのボブ。大人びており、サバサバした性格。
千帆「あははははははは! なにそれ? じゃあ、ニセの手紙を送られちゃったの?」
あんずブスっとしたまま、うなずく。
千帆「やったのだれ?」
あんず「わかんない。机にメモがあったの。16時に中庭に来てほしいって」
千帆「じゃあ、クラスの子?」
あんず「たぶん。……何人か思い当たる子はいるけど……」
千帆「あぁ、たしかにね。『委員長』のこと気に食わないって顔してる子いるよね」
あんず「もう、やめてよ! その呼び方!」

【紹介入る】
わたしが通う私立風早学園は、のんびりした校風が人気の中高一貫校だ。
わたしは中等部から、4年連続で学級委員長をやっている。
おかげで、ついたあだ名が「委員長」。

あんず「今年はやりたくなかったのになぁ……」
千帆「仕方ないよ。あんずみたいに頭が良くて、しっかりしている子、めったにいないもん。あんずがいると、クラスの雰囲気が引き締まるって、先生の間でも有名らしいよ」
あんず「ぜんぜん、うれしくない……」
千帆「できる女はたいへんだね。余計な恨みまで買って」
あんず「千帆! ぜったい面白がってるよね?」
千帆「あははははー」
そのままわきあいあいと話しながら、歩くふたり。
ふと、千帆が思いついたように言う。
千帆「で、だれだったの?」
あんず「え?」
千帆「告白の相手だよ。何組の子?」
あんず「それは……」
その時、すぐ横のコートから大きな歓声が上がる。
つられてそちらを見るあんずと千帆。

ミナトと友人数人がバスケをやっている。
ミナトがドリブルのあと、カッコよくシュートを決める。
男子たちがミナトの肩を抱き、周りで女子がキャーキャー騒いでる。ミナトも笑顔。
※ミナトは男子にも女子にも慕われている人気者。

千帆「うわー、相変わらずハンパない人気だね、篠崎ミナト。……そういえば、篠崎くんって、中学は晴嵐だって」
あんず「え? あのメチャ偏差値の高い!? あそこも中高一貫だよね。なんで、うちに?」
千帆「さぁ? 男子校がイヤだったとか? あれだけルックス良くて、頭も性格もいいなら、共学のほうが楽しいでしょ」
あんず「篠崎くんってやっぱりモテるの?」
千帆「あったりまえじゃん。うちの学校ぶっちぎりナンバーワンだよ! もう30人以上フラれてる」
あんず「は? 入学して半年で?」
千帆「うん。ノリがいいし、みんなに優しいけど、だれが告白しても完ぺき拒絶なんだって。よっぽど理想が高いんだろうね」
あんぐりと口を開けて固まるあんず。
頭の中に昨日の光景がよみがえる。

〇冒頭シーンの続き(回想)
ミナト「じゃあ、連絡先交換しようよ。スマホいま、持ってるよね?」
あんず「い、いや、あの、ちが……」
なんとか、誤解を解こうと、必死に口を開くあんず。
しかし、ミナトがぐいと顔を近づけてきて、おどろいて固まる。
ミナトがあんずのメガネの位置を直す。
ミナト「メガネずれてた」
あわわとなるあんず。
ミナト「高梨さんって、いつもキリってしているのに、そういう顔もするんだな」
そして、あんずを見て愛おしそうに笑う。その笑顔に、ますます動揺するあんず。
ミナト「もう彼女なんだから、名前で呼んでもいいよね? あんず」
そこに少し離れた場所から、ミナトを呼ぶ声。
男子「おーい、ミナト! 清岡が探してたぞー」
思いっきり顔をしかめるミナト。
ミナト「やば。忘れてた……」
あんずのほうを見る。
ミナト「ごめん、3分で戻ってくるから! ここで待ってて!!」
そのままダッシュで去るミナト。あんず、一瞬ぼーっとしたあと、
あんず(え? え? なに? どういうこと?)
真っ赤になって顔から湯気がでるあんずのアップ。

〇現在に戻る
あんず(結局、戻ってくる前に逃げ帰っちゃったんだよね……)
あんずため息をつく。
千帆「で? 話戻るけど、告白の相手ってだれ?」
あんずハッと我にかえる。
あんず「だ、だれだったかなー、別のクラスの子だったから覚えてないや」
千帆「ふーん? あんずって恋愛経験ゼロなんだよね? もしかして、これがきっかけになったりして……」
あんず「いやー、それはないでしょ!」
あんず(い、言えない。相手が篠崎くんなんて、しかもOKだったなんて!!!)

〇前段の続き・1年2組の教室(あんずと千帆のクラス)
あんず、自分の机に座って、ふーっと息を吐く。
あんず(なんか、朝から異常に疲れたんだけど……)
(それにしても、昨日のあれ、なんだったの?)
(まさか本気……のわけないか。いままで喋ったこともないのに)
あんずの脳裏に中学時代のことがよみがえる。

〇中学時代(回想)
教室で男子数人がしゃべっているのを、教室の外から聞いてしまう。
ひとりは、あんずに最近、よく話しかけてくる男子:A。
※あんずも好感を持ち始めていた。
A「は? 委員長? ないない! オレ、守ってあげたくなるタイプが好みだもん。委員長みたいな地味で、キツイ感じの子、興味ない」
男子「でも、おまえ委員長とすげー仲いいじゃん」
A「だって、勉強教えてくれたりするしさ。いろいろ便利なんだ」
男子「うわ、ひでー」
持っていた本をぎゅっと抱きしめて、立ちつくすあんず。

〇現在に戻る
あんず(もしかしたら、篠崎くんもニセの手紙を送った人の仲間なのかも)
(いっしょにわたしをからかおうとしたとか? だったら、逃げて正解じゃん)
あんず、気を取り直して、カバンから荷物を取り出し始める。
その時、急に教室がキャーと騒がしくなる。
みんなの視線の先を見ると、ミナトが入り口に立っている。ぎょっとするあんず。
あんず(え……、篠崎くん? なんで、ここに?)
すると、ミナトがあんずの方を見る。目が合うふたり。
そのまま、ミナトが颯爽とあんずの方に向かってくる。
うつむく、あんず。
あんず(まさか! 私に会いに来たとか?)
(うそでしょーーー?)