スマホを握る指に力が入る。
晃の事も真剣に考えないと
駄目なのに……。
私……ずるいよね……。
こんなの……。
だけど、このメッセージからは
逃げる事はできなかった。
少しだけ間を置いて、
私は短い文書で返事を送った。
”うん、大丈夫だよ。”
送ちゃった……。
この先何かが変わっちゃうかもしれない……
そんな予感だけが静かに残る。
理央君……夏奈ちゃんの話なんだよね?
そう思い込む事で自分の期待に蓋をする。
夕方の駅は、昼間の熱をそのまま閉じ込め
たように蒸していた。
俺は改札を抜け、ホームに立った。
スマホの画面には、琴音ちゃんからの
短い返事が残っている。
”うん、大丈夫だよ”
たったそれだけの文字なのに、
胸の奥が何度もザワつく。
今更、めちゃくちゃ緊張してるとか
笑っちゃうよな。
ホームの向こう側に、電車が入ってくる
音が聞こえる。
風が吹き抜けて、シャツが肌に張り付いた。
琴音ちゃん……今どんな顔してんのかな。
会う前から琴音ちゃんの事ばかり
考えてしまう自分に苦笑いする。
到着した電車に乗り込み、
空いてる席に腰を下ろす。
電車の合図とともに車体がゆっくり揺れた。
ふと窓に映る自分の顔を見ると、
真剣な表情で少し硬い表情にも見えた。
花火大会の事……どう言う?
頭の中で何度もシュミレーションを繰り返す。
”忙しくて無理なら全然大丈夫だよ”
”友達と行く予定が入ってるならそっちで行きな”
逃げ道ばかりの言葉が浮かんで頭で消した。
違う違う……そうじゃない……
一緒に花火大会に行きたい、
琴音ちゃんと花火を見たい
それを正直に言うだけのこと。
悩む必要なんてないだろ俺……。
車内のアナウスが流れる。
「次は、東中園。」
琴音ちゃんが毎日暮らしてる街。
この街に来るのも大体5回ぐらいだろうか。
電車が減速し、ブレーキ音が響く。
俺は立ち上がり、ドアが開くと
夕方の風を連れて琴音ちゃんが住んでる街へ
1歩踏み出した。
改札を抜け、駅前の商店街を抜けて行く。
住宅街を歩くと、夕飯の支度を始める
家からかすかに漂う晩御飯の匂いがした。
俺はどんどん歩きながら、スマホを
握りしめた。
もう、地図アプリを開かなくても、
覚えてしまった道。
マンション近くのあの公園……。
小さな滑り台と古いブランコ
砂遊び場がある小さな公園。
花火大会の誘いをここで言うんだ……。
また1つ思い出が増える。
俺は電車中で事前にマンション近くの
公園に来て欲しいとメッセージを送っていた。
木々の間から、公園の入口が見えた。
夕焼けが遊具をオレンジ色に染めていた。
ベンチの影に、見覚えのある後ろ姿があった。
「いた……。」
琴音ちゃんだ。


