休憩室を出た後夜風に当たりながら、
理央と私は2人で旅館内を散歩する。
灯籠の灯りが、
足元を優しく照らす。
恋人繋ぎをしてゆっくり歩くと
理央から口を開いた。
理央
「……今日は、」
「色々あったな。」
そう言う理央の横顔を盗み見すると、
どこか儚げで、切ない表情を
していた。
琴音
「うん。」
「でも、」
「こうして理央と一緒にいられて、」
「よかった。」
理央は、
そっと私の反対の手を取る。
理央
「俺もだよ……でも……」
「俺、独占欲強いって、」
「自覚してる。」
「だけど、琴音を」
「手放す気はない。」
私は、手を握り返した。
琴音
「……私も。」
「理央と離れる気ないからね。」
「ずっと、一緒が良い。」
短い言葉。
でも、確かな気持ち。
私と理央は
ゆっくり歩きながら、
静かな時間を共有した。
やがて、部屋の前に到着し、
理央は繋いだ手を離す。
私は、名残惜しくなって
理央の顔を見つめる。
すると、理央は優しく私の
唇にそっとキスを落としてくれる。
それだけで、愛がいっぱい満たされて
身体の芯から暖かくなるのを感じた。
理央
「おやすみ。」
「また、明日の朝な。」
琴音
「おやすみ。」
「うん、また明日ね。」
私と理央名残惜しそうに
最後は見つめ合いそれでも離れ、
それぞれの部屋へ戻る。
布団に入り、夏奈ちゃんと千歌ちゃんと
今日一日の出来事を思い返しながら、
やがて眠りにつく。
それぞれの胸に、
同じ夜が、
違う想いとして残っていた。
───翌朝
朝、障子越しに差し込む
やわらかな光で、
旅館の一日は静かに始まった。
遠くで聞こえる鳥の声。
川のせせらぎ。
廊下を歩く足音。
夜の緊張とは違う、
穏やかな空気が流れている。
私は布団の中で、
ゆっくりと目を開けた。
……旅行もう終わっちゃうんだ……。
私の隣では、
千歌ちゃんがまだ寝息を立てていて、
夏奈ちゃんはすでに起きて、
静かに身支度をしていた。
琴音
「夏奈ちゃんおはよ。」
私が声をかけると、
夏奈ちゃんは振り返って微笑む。
夏奈
「おはよう琴音ちゃん♪」
その笑顔は、
昨日よりもどこかすっきりして見えた。
そんな事を思っていると
千歌ちゃんも起床してきた。
千歌
「2人共おはよー。」
夏奈・琴音
「千歌ちゃん、おはよう!」
千歌ちゃんは、テキパキと支度を
済ませ、私達は朝バイキングが
ある広間に移動した。
朝食は、
昨夜とは別の広間でのバイキング。
焼き魚、
卵焼き、
味噌汁、
地元の野菜。
どれも美味しそうで、
早く食べたいと思わせる料理が
並んでいた。
既に、男子組は広間に到着していて
私達は合流した。
千歌
「朝ごはん、」
「こういうの好き。」
千歌は、
小鉢を並べながら言う。
遥陽
「わかる。」
「ほら千歌、卵焼き好きだろ?」
「はい。」
千歌ちゃんの言葉に
遥陽君は頷きながら千歌ちゃんに
卵焼きをトレーに乗せた。
千歌
「遥陽ありがとう!」
遥陽
「あっ、そう言えば昨日」
「晃、全然寝息たててなかったけど」
「よく眠れた?」
遥陽君が理央軽く振ると、
理央が答える。
晃
「まぁ、まぁ寝れた。」
私は、晃の横顔を一瞬見て、
視線を戻した。
晃……、まぁまぁって事は
あまり寝れてないんだ。
大丈夫かな……。
そんな事を考えていると、
みんな席に着いて各自で取った料理を
食べながら会話をする。
会話は、学校の話や、受験の話など
他愛ない内容だった。
朝食を終え、
部屋に戻って荷物をまとめる。
布団が片付けられ、
畳だけになった部屋を見ると、
急に現実に引き戻される。
千歌
「なんだか……」
「……あっという間だったね。」
千歌ちゃんがしんみりと言う。
琴音
「ほんとだね。」
「もっと泊まりたかったなぁ。」
私は、そう言って
窓から見える景色をもう一度目に焼きつけた。
夏奈ちゃんは、
黙ってリュックを背負い、
私と千歌ちゃんを待つ。
その背中は、吹っ切りれた感じで
少しだけ、前よりもまっすぐだった。


