君の事好きになっても良いですか?



「確かに……。」

「この辺、」
「順路から少し外れてるし、」
「人も少ない。」

晃は水槽の方を真っ直ぐ指す。
それは全然迷いもなかった。

「合流まで、」
「今いる場所の水槽だけ、」
「一緒に見て回ろ。」

俺はあくまで、
“動かない”という条件は守ったまま。


確かに、このまま動かずに待ってるより、
このエリア内の水槽なら見て回っても
すぐに、理央達が来たら合流はできる
……。
それに、やっぱここのエリア内の水槽が
とても魅力で綺麗だから見たいと言う
好奇心が勝手しまった。
私は少し考えて、晃の提案に頷いた。


「……うん。」

2人で立ち上がり、
水槽の前に向かう。

だが、
一歩進んだところで、
人の流れがまた一瞬乱れた。

俺は反射的に、
琴音の手首に触れる。

「……また、」
「はぐれたら面倒だろ。」

そう言ってそのまま、
ゆっくりと琴音の左手を取る。

「晃っ!?」

強くはない。
でも、離さない力。

「だから、」
「合流するまで……」
「手、繋ご。」

俺は言い訳みたいな口調で
言った。
拒否られたらどうしようとか、
断られたらどうしようとか、
そんなの考えるまでもなく、
とにかく”琴音に触れたい”……
その欲が剥き出しになってしまった。


琴音は、
一瞬だけ指先に力を込めてから、
何も言わずに受け入れた。

手と手が繋がる。
決して、恋人繋ぎではないけれど……
でも、充分俺の心は満たされていく。


ひんやりした館内で、
互いの体温だけが、
はっきりと伝わる。

……これでいい。

俺はそう思いながら、
繋いだ手を見ないようにして歩いた。

見てしまったら、
俺の心臓が保たれなくなるから。



クラゲの水槽。

青い光の中で、
半透明の身体が
ゆっくりと漂っている。

「綺麗……」
「だけど……不思議だね。」

琴音が呟く。
そんな呟く琴音の表情が、
少し大人ぽく、儚い横顔が
たまらなく綺麗だった。
正直……クラゲを見る余裕など
なかった。

「な。」

晃は短く答えながら、
心の中では別のことを考えていた。

今、理央はいない。
だけどこのまま琴音と
2人になれる時間は一刻一刻と
限られて来ている。

……でもこの手は……
まだ……離したくない。

水槽を一つ、
また一つと見て回る。

言葉は少ないが、
沈黙は重くない。

繋いだ手が、お互いの体温が交わって
すべてを語っているようだった。



やがて、
向こうから聞き慣れた声がする。

理央
「――琴音!」

理央だった……。
琴音は、理央を見ると手がピクリと
動く。

きっと俺の手から離れようとしたのだろう。
だけど、俺は力強く握っていたせいで
解けなかったのだろう。

俺と琴音はそのまま手を繋いだまま。
離したくない。

振り向いた瞬間、
理央・夏奈・千歌・遥陽の姿が見える。

そして、理央の視線が、
一瞬で凍る。



晃と琴音の、繋がれた手。

俺は一瞬にして、
迷わず琴音と晃の傍に行った。

理央
「……何してる。」

怒りを出さず低く、
抑えた声で言った。


「みんなとはぐれたから、」
「琴音がら迷わないように。」
「手を繋いでる。」

晃は静かに答える。

だが、
理央の表情は一切緩まない。